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第7話 面白いくらいの実直さ
キーについている番号の部屋へと入る。
内装もシンプルなものだ。
大きなキングサイズのベッドが大半を占める部屋。
申し訳程度の小さなローテーブルと2人掛けのソファーがあるだけ。
カラオケやゲームなんて置いてない。
窓は完全に板で塞がれ、外なんて見えない。
本当に、それだけの…セックスするためだけの部屋だ。
「あ、ホテル代……」
尻のポケットから財布を取り出そうとする男に、俺は声を被せる。
「…シャワー浴びてきても良いか?」
昼間の暑さに汗をかき、気持ち悪かった。
「ぁ、うん」
脈絡のない俺の問い掛けにも、男は焦りながらも頷いて見せる。
俺は無造作にニットに手を掛けた。
これから裸を見せるのに、照れたところで仕方ない。
ばさばさと脱いだ服をベッドの上に放り、肌を曝す。
服を脱いでいく俺に、男は盗み見るような視線を、ちらちらと寄越す。
「いやらしい見方すんな」
俺がその気になったら、どうするつもりなんだよ。
責任取れねぇクセに……。
中途半端に遠慮がちな視線が、俺の羞恥を煽ってくる。
悪いコトでもしているような、妙な背徳感が胸をぞわぞわさせた。
でもここで俺が恥ずかしがれば、男も照れる。
お互いに恥じらい、変な空気になるのが目に見える。
俺はボクサーパンツも脱ぎ捨て、股間を隠すこともせず、男を見やる。
「俺、ここに泊まるつもりだったから、ホテル代はいらねぇ。たまに大きいベッドでゆったり寝たいんだよ……」
顔を上げた男は、視線が動かないようにじっと俺の瞳を見やる。
「でも…、モデル料ってコトで俺が払うつもりだったんだけど」
未だに財布を掴んだままの男の手許。
財布に視線を向ければ良いのに、頬が微かに赤い男は、俺の顔に瞳を据えたままだ。
視線を動かせば俺の股間が視界に入りそうで、動かせなくなっているらしい。
いやらしいからチラ見をするなと言った俺の言葉に忠実に従う。
面白いくらいの実直さに、ふっと鼻から息が漏れた。
「これから描こうって思ってんだろ? 別に見るなとは言ってねぇんだけど?」
だから、隠しもしてない。
隠した方がチラリズム的に見たくなるもんだろうし。
「いや。まだ描く準備もしてないのに、股間ばっかじっと見るのもなんか変だし、ちらちらはエロいって言われるし、…それなら顔見てればいいかって思って」
言葉を紡ぎながらも男は視線を背けるコトをしない。
じっと顔だけを見詰められるのも、なんだか胸がむず痒い。
こいつの視線に曝されると体が熱くなる気がする。
俺はクリアな視界を放棄するように、メガネを外し、適当に放った衣服の上に放置した。
「シャワー浴びてくる間に描く準備しとけよ」
男に背を向け、俺はバスルームに足を進めた。
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