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第9話 見えるから煽られるんだ
あの手は俺に触れる時、荒く撫で回すのか、優しく滑り遊ぶのか……。
要らぬ妄想が、頭を掠める。
エロい雰囲気なんて微塵もないのに、頭の片隅から這い出た空想が、俺の身体を熱くしていく。
あぁ、ヤバい……、勃ちそう…。
ぐっと瞳を閉じ、深く息つく。
沸き上がりそうな淫らな気持ちを捩じ伏せた。
見えるからダメなんだ。
見なきゃいい……。
描き始めてから30分くらいしか経っていなかったが、徐に口を開いた。
「体勢、変えていいか?」
耳に届く声に、写生物だった俺が、男の意識に人として認識される。
「ぁ、うん。疲れるよね…座ってるだけでも描かれてるって思ったら力入るしね」
俺の顔に視線を据えた男は、話ながらスケッチブックを捲る。
描きかけの俺の身体が、送られていく。
「腹這いに寝そべったりとかでもいい? それとも、……ここ描きたい?」
わざとに股間を指差して見せる俺に、男が顔を赤らめる。
「いやっ。ヌードだからってそこを描きたい訳じゃないからっ」
慌てたように、男の視線が横へと逸らされた。
「うつ伏せでも、なんでも楽な格好でいいっ」
男の返答に、俺はうつ伏せに寝転がり、枕を手繰 り寄せた。
メガネを外し、抱き締めた枕に頭を預ければ、眠気がふわりと訪れる。
睡眠欲に従うように、俺は軽く目を閉じた。
「眠っても、いい……」
柔らかく紡がれる男の声に、身体から力が抜ける。
「…描き終わって俺が寝てたら勝手に帰って。鍵さえ返さなければ清掃来ないから」
ふぁっと漏れそうになる欠伸を噛み殺した。
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