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第18話 素直に言えばよかった <Side 真実
――ピピピピピ……
聞きなれない音に、意識が浮上する。
ハッとなり、目を開ける。
目の前には、少し凹んだ枕があるだけだった。
腕の中に閉じ込めたはずの温もりは、もうそこに無かった。
ぁあ、逃げられた……。
落胆の思いのまま、身体を起こし、鳴り止まないアラームを止める。
ワンチャンなら、素直に“セックスしたい”って言えば良かった。
後悔しても、時間は戻らない。
名前も連絡先も、何もかも知らない。
服を畳んだときに、財布もスマートフォンも持っていないコトに気づいた。
残ったのは、スケッチブックに描いた寝顔だけだ。
白いざっくりとしたニットに、濃紺のスキニージーンズ。
大きめのニットが、スキニーがぴったりとフィットする太腿を強調する。
セックスアピールに見えた。
綺麗な人だと思った。
本を読むために、伏せた睫毛が頬に影を作る。
見るものを誘惑するような扇情的な影。
長い睫毛が、瞬きの度に揺れて綺麗だった。
見惚れているうちに、他の男が声を掛けそうになり、慌てて横に座った。
でも、真横に座る勇気がなくて、中途半端な空間が生まれた。
少し離れた所に座れば、嗅いだコトの無い香水の匂いが香る。
清涼感のある爽やかな香りの中に、花の甘さが混じった不思議な匂いだった。
そんな中途半端な距離で、チラチラと盗み見ていたオレは、なんのつもりだと凄まれた。
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