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第20話 全力で蓋をする

 シャワーを浴びに行ってしまった彼に、適当に投げ捨てられた服を、黙々と畳む。  鞄も持っていなかった。  財布もスマートフォンもない。  彼の名前も、連絡先も知りようがない。  彼に直接、聞くしかない。  …エロい目で見るな。  彼は、モデルだ。  このチャンス、ものにしたいだろ?  えっちだけが目的だと思われたくないだろ?  いい感じになって、仲良くなって、ご飯を食べたり、遊びに行ったり……一緒にいろんなコト、したいだろ?  ………我慢だ、我慢。  心を無にする。  もぞもぞと沸き上がってきそうな、いやらしい感情に全力で蓋をする。  顔を描かないように、首から下をスケッチする。  体勢を変えたいという申し出にも快く応じる。  枕に顔を埋めた彼は、微睡むように瞳を閉じた。  瞳を閉じたその顔も綺麗で、思わず眠ってもいいと囁いていた。  描き終わったら勝手に帰れと言った彼。  オレは、帰る気なんて更々無かった。  数分と経たずに、彼の背中が一定のリズムで上下する。  傍に置かれていたメガネと文庫本をソファーの上にある畳んだ服の上へと移動させ、ベッドへと戻った。  寒くはないと思ったが、風邪を引いてしまったら困る。  オレは、足側に適当にまとめていた肌掛けを引っ張り、彼に被せた。  フワリと顔にかかる髪。  擽ったそうに見えて、起こさないように、慎重に髪を寄せた。  ん? 化粧してんのか?  近くで見て、気がついた。  眉は綺麗に整えられ、目許を縁取るアイラインが少しばかりの気の強さを乗せていた。  睫毛は…、天然かな。  肌には何もしていないようだが、唇には少し色が加わっているらしい。  さらに、左目の瞼、目を閉じないとわからない場所に小さな黒子があった。  その綺麗な寝顔に、無意識のうちにペンを走らせていた。

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