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第35話 単語ひとつに揺れる心
ベッドに顔を埋めてしまった俺に、マコトは、小さく溜め息を吐く。
「まぁ、いいや。シたくなったら、呼んでよ? ……もうこの際、オレはあんた…、柊 さんの連絡先知らなくてもいい。非通知でもいいよ。電話の相手が柊さんだってわかれば、オレ飛んでくるよ」
飛んでくる……か。
そんなに、俺とのセックスが良かったのか?
ベッドから顔を上げ、ちらりと向けた視線の先で、男は口角を上げて見せる。
「つっても、仕事中は無理だけど……」
困ったように、後頭部を掻く姿に、疑問符が浮かんだ。
「仕事?」
問い掛ける声に、マコトは間髪入れずに言葉を返す。
「アパレルの営業」
名刺持ってくればよかったな、と呟くマコトに想像と違ったコトに言葉が漏れた。
「美大生なのかと思ってた……」
ぼそりと放った俺の言葉に、マコトの笑い声が重なった。
「あははっ。いくつに見えてんの?」
自分を指差し、首を傾げるマコトに、俺は瞳を細めて焦点を合わせる。
「20歳くらい……?」
「これでも、24歳だよ。…美大は、落ちた。これは趣味」
スケッチブックへと落ちたマコトの視線。
少し寂しげに、とんとんっとスケッチブックを叩いて見せた。
ふっと気持ちを切り替えるように息を吐いたマコトの視線が俺に戻る。
「柊さんは? いくつ? 同じ歳くらいかと思ってんだけど……?」
「26」
マコトの話しのリズムに乗せられ、年齢まで口走り、慌て言葉を繋ぐ。
「……てか、個人情報、ばら蒔いてんじゃねぇよ。俺がヤバいヤツだったらどうすんだよ」
マコトから視線を外し、呆れたように声を放つ俺の上から、ははっと小さな笑い声が降ってくる。
「どっちかって言ったら、オレの方がヤバいヤツっぽいよね」
笑いを止めたマコトは、俺の髪を弄る。
「それに、ばら蒔いてる訳じゃないよ。柊さんだから、教えたんだよ」
俺、だから。
そんなコトを言われたら……、心が、揺れる。
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