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第36話 俺の電話に付随するもの
「はい。どうしました? 今日、会う?」
「なに出てんだよ」
電話を取った瞬間に、矢継ぎ早に紡がれるマコトの声に、可愛げのない言葉を返した。
文句のように放った俺の声に、マコトは、へ?と間抜けな音を放つ。
「仕事中じゃねぇのかよ……」
「あ、いや。昼飯食べ損ねたんで、遅い昼休憩中。柊さん、タイミング良すぎ」
ははっと嬉しそうに笑ったマコトに、胸がきゅっとなる。
あの後、俺は欲に従い眠りに落ち、マコトは暫くスケッチを続けていたらしかった。
翌朝、またしてもマコトの腕の中で目覚め、無駄に顔を赤くした。
非通知でも良いと言われたが、わざわざそうするのも面倒で、そのまま電話を掛ければ、マコトの嬉しそうな“ありがとう”が返ってきた。
その後も、何度となく、出なかったら公園に行こうと思いながら、義理立てをするように電話をすれば、マコトは必ず応答した。
今回は、さすがにこの時間なら出ないだろうと、昼の3時過ぎに電話をした。
無意識のうちに、いつでも飛んでくるというマコトを試すようなコトをしていた。
マコトとの関係は、続いていた。
セックスをして、被写体になるだけの関係。
身体だけの関係だ。
先に進みたいわけでも、後戻りしたいわけでもない。
臆病な俺は、この関係に気持ちを乗せて、無駄に傷つくコトを避けている。
「今日は19時には上がれそうなんで、駅で待ってて」
あの公園のすぐそばの駅が、俺たちの待ち合わせ場所になっていた。
「ん? ……ぁあ」
時間を決められ、会うコトになる。
それには、セックスがついてくる。
そうだ。
俺の電話はセックスの誘いであって、用事もなく、…声を聴きたいからと、するものじゃない。
「じゃ、夜に」
簡素な会話を交わし、通話が切れる。
俺に呼ばれたら飛んでくると言っていたマコト。
言葉通り、電話をすれば、必ず俺の前へと現れた。
俺だから名前も歳も教えたんだと言われれば、少なからず意識した。
まるで、“好きだよ”と囁くような優しい手つきに、愛されている気分になる。
まるで、俺のものだと宣言するようなキスマークに、胸の奥がざわつく。
だけど。
マコトは、俺を好きな訳じゃない。
絵を描きたいから、その対価として抱いているだけなんだ……。
間違えては、…いけない。
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