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第37話 昇格チャンス <Side 真実

 番号を通知したままに、電話をくれた柊さんに、嬉しくなった。  それは、オレが“知らない誰か”から、“知り合いの真実(まこと)”くらいまで、昇格した証だから。  でも、オレからは連絡をしなかった。  柊さんの番号を知っても、オレからは誘わない。  何度か、柊さんからの誘いを受け、会っていた。  ヤるコトをやって、絵を描かせてもらうだけ。  オレたちの関係を呼称するなら、セックスフレンドだろう。  オレは、柊さんにとっての“都合のいい男”であるコトに徹していた。  柊さんはまだ、オレを信頼していない。  名前は、たぶん偽名だし、スマートフォンや身分を証明するような物を持っているのを見たコトがない。  それは(すなわ)ち、オレへの警戒を怠っていないというコトだ。  そんな柊さんに、ぐいぐいと迫り、この細い糸のような関係をぷつりと切られてしまえば、そこで終わるから。  そんな顔見知り程度のオレは、恋人への昇格チャンスを虎視眈々と狙っている。  それなりの頻度で来る連絡に、柊さんはあの公園通いを止めたのだろうと読んでいる。  セックスをする度に、オレがつけるキスマークのせいで、他の男を誘えないだけかもしれないけど。  今日、いつもはかけてこない時間帯に電話が鳴った。  柊さんからの電話に嬉しくなる反面、不安も過った。  今まで柊さんからの連絡を、取り零したコトはない。  でも、取り損ねてしまったら?  他の男のところへ行ってしまうんじゃないか?  きっとオレなんて、簡単に捨てられてしまう……。  …今日が、昇格チャンスなのかもしれない。  腹を括れ、オレっ。

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