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第40話 しらばっくれられないように
「オレは嫌だっ」
むすっとしたマコトは、俺の言葉に抗った。
「一緒に綺麗な景色見たいし、美味しいご飯も食べたい。デートしたい。……柊さんのコト、もっと知りたい」
まるで、玩具の前で駄々を捏ねる子供のように、拗ねた声を放つ。
好きなものも、嫌いなものも、俺がどんな性格なのかさえ、マコトはわかってない。
悔しげに、切なげに、……哀願の色を浮かべるマコトの瞳。
もっと話をしたい。
もっと触れたい。
もっと、…ずっと、一緒に居たい。
この瞳を、この熱を、跳ね退け捨てるコトに、幾ばくかの罪悪感が胸に灯る。
手放すことが、……惜しく、なる。
「……俺のコト、どっかで見つけられたら、本名でもなんでも教えてやるよ。お前の言う通り、付き合ってやってもいいよ」
一瞬、瞳を開いたマコトは、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「……っ! 約束だかんねっ。見つけたら、柊さんは、オレのもんだよ?」
憧憬な未来が目の前にあり、それは入手が可能だと確信したように、マコトは瞳を輝かせる。
……どうせ、見つけられっこない。
着飾った、格好つけた俺しか見たことないんだから。
「ぃ……っ」
歓喜に揺れるマコトの瞳に居たたまれなくなり、視線を外した俺の鎖骨の上に、ぢりっとした痛みが走る。
「……おまっ」
こいつ、セックスしてる最中でもねぇのに、キスマークつけやがったっ。
付けられた鬱血痕を押さえながら、マコトを睨みつけた。
「だって、わかんないじゃん。印つけとけば、答え合わせできるでしょ」
なんら悪怯 れる素振りもなく、言葉を綴ったマコトは赤くなるその痕を覆う手に、口づける。
キスマークの傍から見上げるように俺に向けられるのは、挑戦的な視線だ。
「答え合わせってなんだよっ」
こんなとこにつけられたら、Yシャツのボタン1つ開けらんねぇじゃねぇかっ。
「俺が見つけて声掛けても、柊さんに違うって、しら切られたら終わりじゃん?」
ふふんと勝ち誇ったような音を立てたマコトは、痕を隠す俺の手を上から、トントンっと突ついて見せる。
「こうしておけば、しらばっくれられないっしょ」
自分の方が一枚上手だとでも言うように、マコトは、してやったりと片方の口角を上げた。
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