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第43話 真実の柊
「こら、於久っ。サボってんじゃねぇよ。さっさとパンフ取りに行けっ!」
少し離れた場所から、怒号が飛んできた。
「はいっ。すいません」
声の出所へと視線を向けたマコトは、慌て返答し、立ち上がる。
「オレの会社も参加してるんだ。パンフ足りなくなって…、取ってこいって」
腕時計に視線を落したマコトは、忙しなく椅子を戻す。
「今夜、ご飯食べに行こう?」
戻した椅子の背凭れに両腕をついたマコトは、首を傾げ言葉を繋いだ。
「見つけられたんだから、付き合ってくれるんでしょ? もう、恋人でしょ? オレから誘ってもいいってコトだよね? デートしよう、デート」
わくわくを隠しきれないような、笑顔で俺を食事に誘う。
マコトの真っ直ぐな気持ちに、胸がむず痒くなる。
「早く、うんって言ってよ。オレ、ここ離れらんない。また、怒られるんだけど?」
足をジタバタとしながら、マコトは俺の返事を急かす。
まるで、俺のせいで怒られると言わんばかりの言い回しに、少しムッとする。
「怒られんのは、俺のせいじゃないだろ。……でも、飯は行ってやるよ」
恥ずかしさに、しっしっとあしらう俺に、マコトが、ははっと小さく笑う。
「柊さんが、可愛くて離れがたいのが悪いんだよっ。じゃあね、食べたいもの、決めといてね」
早口で言葉を紡いだマコトは、足早に出入口へと向かっていった。
消えていく背中に、声にはせずに問いかける。
お前の食べたいものは、何……?
心の中で呟いた質問に、思い知らされる。
……俺だって、なんも知らねぇじゃん。
マコトの好きなもの、マコトの好きな場所、俺は何も知らないんだ。
今の俺は、それを知りたいと思ってる。
好きになってんじゃん、……何も知らないクセに。
何も知らなくたって、これから知っていけばいいのか。
俺は、真実 のもの…、真実 の柊 になった。
そんな柊(おれ)の真実 は、いつの間にか真実 に惚れたコト。
【 E N D 】
※このあと、2頁ほどの番外編あります。
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