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第44話 番外編:魔除けのドラセナ・コンシンネ〈前編〉

 俺の手許にある文庫本は、『魔除けのドラセナ・コンシンネ』というものだ。  既に読了していたが、気に入って持ち歩いていた文庫本だ。  悪魔に目をつけられた主人公。  主人公は、その悪魔を追い払う方法を探る旅に出る。  主人公は、ある一人の青年と共に旅をする。  旅の中で、ドラセナ・コンシンネという植物が魔除けになると知った主人公。  その植物で悪魔を撃退しようとするが、青年は、その説を否定する。  共に旅する青年は、ドラセナ・コンシンネにそんな効果があるなど、聞いたこともないという。  植物で魔除けとして使われるのは、葉に棘のある柊の方が有名だ、と。  ドラセナ・コンシンネを入手した主人公は青年と訣別する。  お前のコトなど、最初から信頼していない。  俺は、独りで大丈夫だ、と。  主人公は、独りで悪魔と対峙する。  でも、予想通りドラセナ・コンシンネには、悪魔を撃退する力などなかった。  息も絶え絶えとなる主人公の元に青年は駆けつけ、柊で悪魔を追い払おうとする。  多少のダメージは負ったが、柊を持つ青年を捕まえた悪魔。  悪魔は、青年を甚振(いたぶ)り始める。 『やめてくれ!』 『なぜ? 独りでも平気なのだろ? こいつはお前の足枷でしかないじゃないか。いない方が、身軽になれるぞ?』  嘘ばかりを並べ立ててきた主人公。  信頼しているのに、頼りになどしていないと嘘を吐き、寂しいのに、独りで平気だと強がっていた。  主人公は、自分を偽り続けていた。  共に旅する青年の重荷になりたくなかった。  嘘を吐く度に、卑屈になり、(ひが)み、曲がっていった主人公。 『要らないものなら、捨て置けばいい。私がこいつに(かま)けている間に、逃げればいいじゃないか』  高らかに笑う悪魔に、主人公は叫んだ。 『俺には、そいつが必要なんだっ』  主人公の一言に、悪魔は胸を押さえた。 『信じてるっ。本当は、誰よりも頼りにしてる。独りでなんて居たくないっ』  叫んだ声が衝撃となり、悪魔を怯ませた。 『知ってる。オレはずっと隣に居たんだ。“平気だ”とか、“大丈夫”なんて言葉が、上っ面の戯言(ざれごと)だって気づいてたよ』  穏やかに声を放った青年は、力を振り絞り悪魔に致命傷を与えた。

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