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共通話-3
「あんたまさか、あのモデルの英夜(はなぶさイブ)くん知らないの?! お父さんが『トニー・クローズ』っていうブランドのメインデザイナーで、お母さんがアメリカ人の元モデルで、パリコレにも出た高校生モデルよ!」
そんな有名な人だったとは…。ああ、そうか。テレビで聖トマス・モアの特集見たとき、お姉ちゃんが言ってたっけ。大ファンの人が通ってるとか。確かにテレビ映えしそうな美貌だ。ダークブラウンの長めの前髪、彫りの深い顔で鼻筋が通ってて――
黒地に渋めのゴールドの、ペイズリー柄のベストだ。
「ほら、リップのコマーシャル知らない? タキシード着て、イブニングドレスの女の人エスコートして、最後にカメラ目線で“その唇、帰さない”ってウインクするやつ。テレビの前の女子が死ぬって有名なんだけど」
女子が死ぬコマーシャルなのか。そういえば、見たことあるような気が…。
「でもさ、テレビでこの学園が紹介されたとき、そんな有名なモデルがいるって言ってなかったけど」
「あんた馬鹿ねぇ、そんなことテレビで公表しちゃったら、全国から女の子が殺到して大騒ぎになるでしょうが。だから、テレビでは映っていなかったのよ」
そりゃそうだ。お姉ちゃんみたいなのがいるからな…。でも、お姉ちゃんがその情報知ってるのはなんでだろう? 例の聖トマス・モアマニアの人からの情報かな。
「あの隣の男の子、あんまり笑わないけど、目が鋭くてカッコいい~」
今度は隣の人に興味が移ってる。銀灰色の無地のベスト。ちょっとクールに見えるあの人に、よく似合ってる。
「あの体つき、がっしりしてそうよね。副会長ほどじゃないけど。ちょっと気だるそうに壁にもたれてるとこなんて、クールよねえ。あの子も芸能界にデビューしないかな」
「芸能界?」
眉を寄せたお姉ちゃんは、俺を異端の生き物でも見るような目つきで見る。
「あんた本当に何も知らないのね~。よくそれで聖トマス・モア受かったわね」
「別に、試験問題に生徒会のことなんて出ないから」
最後に全員の写真を撮り、お姉ちゃんは満足そうにうなずく。
「あのクールな男の子ね、俳優の剣獅子 の弟なのよ。お父さんが映画監督の剣鷹彦 で、お母さんが女優の白鷺澪華 なのよ!」
うわあ、芸能一家! これだけの名門校だけど学費が高いわけじゃなく、勉強かスポーツ、芸術の分野で凄い能力が無いと入学できない。だからあの人はコネや財力で入ってきたわけじゃないんだ。
なんだか場違いのような…とんでもない所に来てしまったな…。
「新入生の皆さん、二列に並んでください」
スピーカーからアナウンスが聞こえてきた。そろそろ時間だ。少しブカブカの制服に身を包んだ俺たち新入生は、校庭に二列に並んだ。先頭で引率するのは、眼鏡の生徒会長だ。まるで先生みたいに貫禄があるな。
大きな講堂には、教会の礼拝堂みたいな長い椅子がある。ここは体育館ではない。体育館は別にあるんだ。正面にマリア像、壁には十字架。ここでは毎朝、お祈りを行うそうだ。うちはクリスチャンじゃないんだけど、大丈夫なのかな。
オルガンの賛美歌みたいな曲が流れる中、俺たちは着席した。いよいよ、入学式が始まる。
理事長や来賓の挨拶に続き、生徒会長が壇上に上がる。
何度目の起立、礼だろうか。少し飽きてきちゃった。
「新入生の皆さん、この栄えある聖トマス・モア学園にようこそ」
凛とした、よく通る声だ。お姉ちゃんが大病院の跡継ぎだって言ってたな。将来はお医者さんなんだ。
「――仲間とともに思い出をたくさん作ってください。もちろん、我々三年生や二年生も、あなた方と同じ仲間です」
あれ? あの人、紙も何も見ずにしゃべってるぞ。全部暗記したのかな。先生みたいにスラスラと出てくるのかな。凄い…。頭が良さそうな人だから難しい言葉ばかり並べるのかと思いきや、優しい言葉でまるで一人ずつに話しかけてくれるみたいだ。
「…年四月七日。生徒会会長、榊聖 」
一礼した生徒会長に、俺たちも起立して礼をする。
この学園は各学年、進学クラスが八十名の二組、スポーツクラス八十名同じく二組、芸術クラスが四十名の一組だ。
文武両道ってのをモットーにしてるから、俺たちのクラスでも勉強はやや難しめ、スポーツクラス以外でも体育の授業は筋トレやボルダリングなどで体力や身体能力の向上を目的としていて、かなりハードらしい。
お菓子作りでこの学園に来た俺に、ついていけるのだろうか…。
入学式が無事終わり、俺たちは指定された教室に移動する。一年E組、それが俺のクラスだ。このクラスは芸術クラスだから、中学時代に美術や書道などで賞を取った人ばかり。このクラスで浮いてしまわないかな…。
寮の門限や消灯時間、食事の時間などは入学前にもらったパンフレットに載っている。教室では担任から、明日からの学校生活について説明があった。
朝食は寮の食堂で、午前七時から八時までの間に取る。八時二十分から講堂で礼拝があり、八時五十分から授業が始まる。昼食は、学校内の食堂で取る。
この聖トマス・モア学園は学期が前期、後期に分かれていて、単位制だ。必要単位を取り、授業の出席日数が足りていれば、次の学年に進級できる。
三年生の中にはすでに単位を全て取得していて、特別カリキュラムを専攻している人もいるとか。
説明が終わり、今日は午前中で寮に帰る。けど教室を出る前に、俺は担任の先生に呼ばれた。あ、この担任の先生は美術担当で、中瀬川(なかせがわ)先生という三十二歳の男性だ。スーツ姿なんだけど、かなり細身なのがわかる。温和な感じの先生だ。
「遠野くん、昼食がすんでからでいいから、午後一時以降に生徒会室に来てくれないか? クラブのことで、生徒会から話があるそうだよ」
ひえぇ~っ! 絶対、お近づきになれない雲の上の人たちから、いきなり呼び出しだぁ~っ!
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