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共通話-5

「あ…はい、よろしくお願いします」  ジル先輩が小首をかしげると、綿飴みたいに柔らかそうな金髪が軽やかに揺れた。 「僕もね、S組は美術の授業が無いから辞退したんだ。美術の授業では、美術館に出かけることもあるからね。それにデッサンなんかも楽しいし」  やっぱり生徒会の人たちは、一般庶民とどこか違ってそうだ…。  続いてドアを開けてくれたイブ先輩が、片足を立てて俺のそばにひざまずき、手を取る。まるで王子様かナイトみたいだ。 「ようこそ、新太クン。僕は書記担当、二年A組の英夜(はなぶさイブ)。…って、もしかしたら僕のことは知ってるかな?」  よく見ると、灰色がかったような茶色の瞳。確かハーフだったっけ。そばで見ると、とてもキレイだ…。男なのにドキドキする。 「あ…はい…、口紅のコマーシャルで」 “その唇、帰さない”ってお姉ちゃんが言ってた。そんなセリフを、こんなキレイな人が言うんだ。そりゃ女子はみんな心臓発作起こすよ。 「Awesome! 知っててくれて光栄だよ、お姫様」  なんとイブ先輩は、俺の手の甲にキスをした。…お姉ちゃんに見られたら殺される…。  長い脚を組んでソファーに座っていた、目の鋭い人が立ち上がる。 「二年A組、剣虎牙(つるぎたいが)だ。庶務を担当している。よろしく」 「よろしくお願いします」  差し出された右手を握り、握手をする。骨ばっているけど、指が長くてきれいな手だ。でも、右手の甲に傷がある。怪我なんだろうな。せっかくきれいな手なのに、もったいない。  俳優の剣獅子(つるぎレオ)は、ヒーローから悪役までこなせるイケメン俳優。そのお兄さんに、どことなく似ている。クールな刑事役だったときの剣獅子に似てるんだ。  無口そうな剣先輩とは、あまり言葉を交わさず着席した。俺も着席する。  そういえばイブ先輩と剣先輩は二年生、ジル先輩は三年生だ。下級生がお茶を淹れなくてはいけない、みたいなルールはないんだな。思ったより、堅苦しくなさそうかも。 「さて、本年度より特別に製菓部が設立されたわけですが」  榊会長が本題に入った。俺はソファーに座ったままで、姿勢を正す。 「理事長命令でクラブを作りますが、実は我々生徒会には、クラブを廃部にさせる権限も持っているのですよ」 「は…廃部…」  膝の上で両手を組み、魁副会長が俺を真っ直ぐ見据える。 「成績が思わしくない、部費を不正に使っている、生徒の不祥事などがあれば、理事会の決定を待たずに我々が廃部を宣告することもできるんだ」  穏やかな表情だけど、言ってることは穏やかじゃない。 「そこでですね」  榊会長が立ち上がり、眼鏡のブリッジを指先で押し上げた。 「遠野新太くん、まずはテストです。明日の放課後、我々五人分のお茶菓子を作ってください。審査の上、味が合格点であれば製菓部を認めます」  いきなりデカいハードルだー!! 「製菓部の部室は、西校舎の二階、第二実験室を一部改装しまして、調理室にしてあります。冷蔵庫やオーブンレンジ、ガスコンロ、調理台、試食用のテーブルなど、全て設置済みです」  実験室は、ガスも水道も引かれている。そのため、調理室に改装しやすかったとか。第二実験室はもともと予備として存在していたが、クラス数が少ないためにその第二実験室が使われることはまずないのだそうだ。  ジル先輩が、茶色い封筒をテーブルに置いた。 「これは明日の材料を買う費用。合格すれば正式に部費を出すね」  中身を見て驚いた。一万円札が十枚も入っている! 「こ、こんなにいらないですよ」 「だって、調理器具が足りないかもしれないでしょ? 僕はよくわかんなくて、料理上手なタイガにいくつか器具を買ってもらっておいたけど、後は自分でそろえてね」  料理上手? 剣先輩が? 剣先輩の方を見ると、黙ってうなずいている。ジル先輩が説明を続ける。 「君は材料の買い出しがあるから、部活がある日は全て買い物に行けるよう、すでに外出許可は取ってあるからね。ただし部活の時間内だけで、夜間の外出はできないよ」  後で部室を見て、何か足りない物があるか確認をして、明日のスイーツの材料を買って、今日の活動はそこまでだ。 「では、遠野新太くん」  会長の声が、アンティークな室内に響き渡る。 「明日の生徒会業務が終わるまで、つまり午後五時までに、お茶菓子を作って持って来てください」  セレブな人たちのお口に合うかどうかわからないけど、入学早々廃部になっては、俺がこの学園にいづらくなる。明日は張り切って腕をふるわないと!

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