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共通話-7

 会長の話は続く。 「もちろんテスト期間や個人的な用事、クラスでの仕事、君の体調不良など、部活ができない日には無理して作ることはありません。その場合は、私にメッセージを送ってくだされば結構です。後で友達登録をしておいてください」  と、榊会長は俺に一枚のメモを渡してくれた。これは…榊会長や生徒会のみなさんと、携帯でやり取りできるってことなのか?!  ますます、お姉ちゃんに見つかったら大変だ…。 「君を試すような真似をして、大変申し訳ございません。製菓部だけほかのクラブとは違って異例なため、全校生徒を納得させるには我々が君の実力を知らないといけないのですよ」  聖トマス・モア学園には、テニス部、サッカー部、野球部、ラグビー部、柔道部、ゴルフ部、フェンシング部、陸上部、美術部、音楽部、書道部、情報処理部、科学部、そして製菓部がある。  通常、クラブは最低人数五人が必要で、五人未満になった年に新入部員が入らないと廃部になってしまう。そのため剣道部は、魁副会長が二年生の時に部員が三名になってしまい、廃部になったそうだ。  けど製菓部だけは理事長直々の設立という特例で、俺が卒業するまで部員が五人未満でも部を存続できる。人数がギリギリの部活から見ると、特別扱いされている製菓部は気に入らない、と疎まれる。  だから榊会長は製菓部を、“生徒会が認めたクラブ”と公言したかったのだそうだ。  とりあえず、三年間部活ができてホッと一安心ってとこだな。 「製菓部は、ほかの部活のように試合や発表会などといった、腕前を披露する場がなかなかありません。ですが製菓のコンクールに出たり、理事会や茶話会などに茶菓子を提供することができます。積極的に活動してくださいね」  ジル先輩に、ソファーに座るように促された。俺の前に青い花模様のコーヒーカップが置かれた。 「はい、ご褒美にコピ・ルアクをどうぞ。明日からは六人分のお菓子を作って持っておいでよ。いっしょにお茶しよう」 「い、いいんですか?」 「ビヤンシュー(もちろん)! 君はお茶会の大切なお客様だよ」  天使の微笑みが優しく包んでくれる。コピ・ルアクってコーヒーも、まろやかでとてもいい香りで、今までこんな味わいのコーヒーを飲んだことはない。最高のお茶会だ。  夜にネットでコピ・ルアクを調べたら、お店で飲むと一杯八千円ぐらいするほどの希少価値があるとかで驚いたが、もっと驚いたのはその豆が、ジャコウネコがコーヒーの実を食べた後のフンから採取される、ということだった…。  聖トマス・モア学園の授業はなかなかハードだ。一時間目の数学は、中学のおさらいなんてやってくれなくてついて行くのが精一杯で、二時間目の英語はイギリス人の講師から本格的な英会話を学ぶ。三時間目の体育は、柔軟体操と筋トレとジョギング――精神的にも肉体的にも疲れて、やっと昼ご飯。 「遠野、いっしょに食べようか」  そう話しかけてくれたのは、同じクラスの中山。おまけに同室で、真っ先に仲良くなった奴だ。中山は中学の時に油絵のコンクールで優勝して、スカウトが来たそうだ。  今日のメニューはオマール海老の何とかソースっていう、難しいカタカナの名前の料理とサラダにスープ、食べ放題のパン。ここの料理は学食とは思えないほどおいしくて、食堂内もまるで高級レストランみたいだ。シャンデリアにビロードのカーテン、真っ白なテーブルクロス。  とても広くて席は人数分あるから慌てることはないけど、中山と二人でトレーを持って空いてる席を探してた。 「ボンジュー! アラタ!」  白くて長い指をヒラヒラさせて、ジル先輩が呼んでくれた。生徒会みなさんが、同じテーブルについて食事を取っている。 「こんにちは、みなさん」  俺はトレーを持ったまま、お辞儀をした。 「今日のお菓子、楽しみにしてるよハニー」  と、イブ先輩がウインクしてくれた。途端に、周囲がざわつく。 「誰だあれ?」 「一年のほら、製菓部の」 「生徒会の茶菓子を提供するとか」  なになになに? もうそんな話が広まってるの? 「…部員一名だけなのにな」 「生徒会からあんなに気軽に呼んでもらえるなんて、生意気じゃないか?」  グサッとくる言葉も混じる。…俺…靴の中に画鋲とか入れられないかな…。 「…遠野って…生徒会とそんなにお近づきになったんだ…」  うわぁっ、中山まで! 「いや、そんな…お近づきってほどじゃ…」  焦る俺に、中山はクスクス笑う。 「凄いことじゃないか。この学園にいる限り、認められた生徒ってことだから胸張ってろよ」  俺よりも大人びている中山は、俺よりも堂々としている。携帯の画像で絵を見せてもらったけど、プロの画家が描いたって言っても信じてしまうほどの風景画だった。  ここの生徒はみんな、自信家なんだろうな。胸を張れって言われたけど、やっぱり俺にはみんな、雲の上の人のように思えてしまう。  放課後、出来上がったお菓子をワゴンに乗せて、生徒会室に来た。今日はジル先輩に“ミルクティーかカフェオレを用意してください”と頼んでおいた。 「ハーイ、シュガー。今日のお菓子はなあに?」  イブ先輩が出迎えてくれて、俺はお皿をテーブルに置く。 「今日のお菓子は、カレーパンケーキです」 「カレー?!」  また一斉にハモった。

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