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共通話-8
榊会長は、眼鏡のブリッジを押し上げてパンケーキの皿をまじまじと見つめる。
「カレーライスのカレー…ですよね」
「そうです。どら焼きみたいにパンケーキでカレーを挟んでいます」
中のカレーはレトルトだ。上にとろけるチーズをかけて、バーナーで焼いている。隣が実験室なので、ちょいとバーナーを借りた。顧問の先生は化学担当の伊東先生。五十手前の、ちょっとお腹が出たベテラン先生だ。伊東先生立ち会いのもとでバーナーを使ったので、先生にも試食してもらい、太鼓判をもらった。
香ばしいチーズにナイフを入れると、ふわふわパンケーキに挟まれた熱々カレーフィリングがトロリと流れる。この、意外な組み合わせが絶妙なんだ。
「パンケーキは甘いのに、意外と違和感がないな」
どんどんフォークが進む魁副会長は、カレーが好物だと話してくれて、真っ先に完食してくれた。
「まさかお茶の時間にカレー味のおやつを食べるとはね。でも、ミルクティーとの相性バッチリだよ」
ジル先輩も気に入ってくれたようだ。
「僕もカレーは好きだよ。おやつに食べたのは初めてだけどね。おかわりを欲しいぐらいだよ」
二番目に完食したイブ先輩に、ジル先輩が“太っちゃうよ”と笑いながら忠告する。
「筋トレとヨガをしてますから、大丈夫ですよ」
あの体育の授業に加え、自主的に筋トレやヨガまでしちゃうなんて。モデルは体型維持が大変なんだろうな。
「カレーは中辛だな。ほんのり甘味があるのは…チャツネか?」
さすが剣先輩! 隠し味に何入れてもバレちゃうな。
「チャツネではなく、リンゴジャムです。フルーツの爽やかさでカレーの辛味がマイルドになって、外側のパンケーキとの調和が取れるんです」
“なるほど”と剣先輩が微笑んだ。この人の笑った顔、初めて見た…。こんなに優しい顔をするんだ。
俺もミルクティーをもらい、いっしょにカレーパンケーキを食べて生徒会室を出た。まだまだ緊張はするけど、いっしょにお茶できるなんて嬉しい。また明日からも頑張ろうって気になる。
聖トマス・モア学園での生活が、早くも二週間を過ぎた。
ホテル並みにきれいな寮は各学年ごとに三棟ある。一、二年の二年間は、同じ棟の二人部屋に住む。三年生になると受験勉強がしやすいように、三年生専用の一人部屋の棟に引っ越すんだそうだ。
二人部屋はシングルベッド、机、クローゼットと棚が二つずつに、丸いテーブルと一人掛けソファーが二つ。狭苦しさはない。あとはベランダとトイレがある。
一階に洗濯室と風呂がある。制服はクリーニングに出せるけど、私服などは自分で洗濯しないといけないんだ。各寮には廊下や階段、洗濯室や風呂の掃除などをする寮母さんがいるから、洗濯に関してわからないことがあれば気軽に聞ける。
各棟に渡り廊下があり、寮の食堂へと続いていて、朝晩の食事はそこで取るんだ。
今日は日曜日。材料の買い出しにでも行くか。
「あれ? 遠野出かけるのか?」
中山はベッドの上に寝転んで本を読んでいた。
俺は部活中の外出許可はもらっているけど、休日の外出は先生の許可をもらわないといけない。金曜日のうちに、許可証はもらってある。
「うん、お菓子の材料の買い出し。小麦粉や砂糖なんかは日持ちするし、よく使うから買いだめしようかなって。スーパー行けば安いし」
「まるで主婦みたいだな」
笑いながら中山に見送られ、部屋を出た。駅前でバスを降りた。デパートや百円ショップのある駅ビルから少し離れているけど、大きなスーパーもあるんだ。
今日は特売日という情報もある。さすがに特売日。スーパーは混んでる。日曜日だから家族連れも多いな。
そういえば、もうすぐ連休だ。うちは九連休になるから、家に帰ってみようかな。
カートに買い物カゴを乗せ、さあ明日は何を作ろうかと考えてたら、携帯の着信音が鳴った。画面を見て驚いた。まさかあの人からリクエストが来るなんて…!
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