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聖-01

“イチゴがおいしい季節ですね。次はイチゴのスイーツなどいかがですか?”  榊聖(さかきひじり)会長からのメッセージだ。イチゴかあ…。あの完璧で大人っぽい会長から、“イチゴ”なんて可愛い言葉が出るなんて。ニタニタ笑いを必死にこらえながら、俺はイチゴのパックをカゴに入れた。  翌日の放課後。洗ったイチゴのヘタを取り、飾り用のイチゴは半分に、後はスライス。生クリームに砂糖を入れてホイップする。  榊会長、喜んでくれるといいなあ…。 「お待たせしました、お茶菓子をお持ちしました」 「ありがとう、ハニー」  いつものようにイブ先輩がドアを開けてくれる。ワゴンを押し、テーブルにお皿を置いた。全部の皿を置くとジル先輩が紅茶のカップを置いてくれて、“失礼します”と、俺も着席する。 「榊会長のリクエストがイチゴのスイーツだったので、今日はイチゴのミルフィーユにしました」  手のひらにおさまる大きさの丸くて薄いパイの上に、カスタードとスライスイチゴ。その上にパイを重ね、ホイップクリームとスライスイチゴ、またその上はパイで、ホイップクリームと半分に切ったイチゴ、それに粉砂糖のデコレーション。 「ミルフィーユだけど丸い形をしているので、倒さずにそのままナイフを入れてください」  普通の四角いミルフィーユは、倒してから切らないと崩れてしまう。俺のミルフィーユは丸いけど、ナイフで切っても崩れにくい工夫がしてあるんだ。 「いただきます」  と、榊会長がミルフィーユにナイフを入れた。さっくりと切れて、きれいに一口サイズになる。 「このパイ…普通のパイではありませんね」 「それ、餃子の皮なんです」 「餃子?!」  またもやみなさんの声がハモった。チームワーク抜群だ。 「餃子の皮に溶かしバターを塗って、片側だけ焼き色をつけて、餃子みたいに水を入れて蒸し焼きにします。もっちり感が残るから、ナイフで切りやすいでしょ?」  これでパイ生地を作る手間は省けるし、冷凍のパイシートよりも安価で作れる。 「うまいな。カスタードクリームもコクがあって」 「うん、キャラメルソースの味がついてるから、プリンを食べてるみたいだね」  魁副会長、ジル先輩、それは“みたい”じゃなくて…。 「そのカスタードクリーム、市販のプリンを潰したものなんです。バニラエッセンスを少し振って」  またもやみなさん驚いて、フォークが止まる。 「エクセレンス! 形も可愛いし、君みたいだよストロベリー」  また、イブ先輩の“俺のあだ名”が増えた。俺ってイブ先輩からはこの先ずっと、名前で呼ばれることはないのかな。 「バターは無塩バターじゃないから、イチゴやクリームの甘さが引き立つな」 「そうです、剣先輩。甘じょっぱさがクセになるでしょう?」  今日のお菓子も満点花丸をいただいて、お茶会は終了した。  ゴールデンウイークは、家に帰った。寮住まいを始めてまだ一ヶ月もたってないのに、自分の部屋が懐かしい。  休みの間、生徒会のみなさんはこまめにメッセージをくれる。榊会長は、軽井沢の別荘にいるらしい。魁副会長は北海道の大沼。ジル先輩はパリにいて、イブ先輩はなんとニューヨークでファッションショー。剣先輩は、家には帰らず寮に残っているみたい。寮に残る生徒は少なく、食堂も普段よりは忙しくないから、空いてる時間に厨房を借りて料理を作るそうだ。いいなあ、剣先輩の手料理を食べてみたい。  連休明け、今日からまた部活を始める。うちは前期と後期に別れていて、その期末だけにテストがあって中間テストは無いから、まだ部活ができる。けど、授業のレベルが高いから、復習はできるときにしておかないとなぁ。 「なあ、遠野~」  休み時間、教室で中山にポンと背中を叩かれた。 「今日、製菓部に遊びに行っていい? 俺も手伝ってみたい」 「いいけど、美術部は?」 「作品さえ仕上げてたら、毎日顔出さなくてもいいんだ。幽霊部員も多いし」  そういえば、情報処理部もパソコンで活動するから、寮に引きこもって部活してる部員も多いとか…。 「うん、いいよ。ご馳走するからおいでよ」  部室のドアを開けると、中山はキョロキョロと室内を見回した。 「へ~、ここが製菓部の部室かあ~。レストランの厨房みたいにきれいだな」 「だろ? 毎日掃除してるからな」  食べ物を扱うため、清潔にしないといけない。家でもお菓子作りの後は掃除をしていたけど、規模が大違いだ。今月末ぐらいには、冷蔵庫の掃除もしないと。さすがに中身は少ないけど、やたら大きいからなあ。 「まずは手を洗って。洗った後は、服や髪など触ったらダメだよ」  いつか新入部員が入ってきたら、まずは徹底させないといけないことだ。今日はなんだか部長らしいことをしている気がする。  今日のスイーツはパブロバ。焼いたメレンゲの上にクリームやフルーツを飾ったデザートだ。  中山にハンドミキサーでメレンゲを作ってもらい、俺はフルーツを切る。 「あ、ちょうどいい感じだな」  角が立ちはじめたメレンゲに、残りの材料を投入した。 「何それ?」 「酢とコーンスターチ」 「酢ぅぅ?!」  意外な材料で生徒会のみなさんから驚かれるけど、普通の材料で驚かれるとは思わなかった。 「泡立ちがよくなって、泡の持ちもよくなるんだよ」  生徒会のみなさんなら化学にも強いだろうから、そのメカニズムはわかるんだろうな。俺はネットで作り方を調べたから、そのまんま覚えてるってだけなんだけど。  アイスクリームを袋に入れ、絞り口をつけてメレンゲの上に絞り出す。これでソフトクリーム風になって、暑い時期にはぴったりのデザートになる。フルーツを乗せて完成!  ミニサイズのパブロバ七つを実家からもらったクーラーボックスに入れていたら、中山が俺の肩をチョンチョンとつつく。 「それ、今食べていいかな?」 「何で? 生徒会室でいっしょに食べようよ」  中山は慌てて両手を振る。 「い、いや、俺はいいよ。生徒会室なんて緊張するしさ」  みんな優しいから歓迎してくれるよと説得しても、中山はここで食べると言い張る。緊張するっていう気持ちもわからなくはないけど…。  仕方なくパブロバの一つをボックスに入れずに残し、中山には試食ついでに部室で留守番しててもらった。

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