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聖-04

 今日のお菓子はチョコレートサラミだ。溶かしたチョコレートに、ナッツやドライフルーツなどを入れて棒状に固めて、スライスして食べるお菓子なんだけど。冷やし固めるのに時間がかかるから、昼休みの間に作っておいたんだ。  そろそろ暑くなってきた。渡り廊下は風通しもよく、生徒会室はほどよく冷房がきいてるけど、そろそろチョコレートのお菓子はしばらくお休みかな。  いつものようにワゴンを押し、生徒会室に来た。 「お待たせしました。今日はチョコレートサラミです」  切り分けてお皿に盛り、テーブルに置いた。コーヒーのいい香りが漂う。 「ハニー、隣においでよ」 「はい、ありがとうございます」  イブ先輩の隣に座り、俺もコーヒーとチョコレートサラミでティータイム。 「アラタ、これ、中にいろんなものが入ってて食感がいいね。ナッツやドライフルーツや、サクサクしたのが」  ジル先輩の言うとおり、いろいろな食感や味が楽しめるけど、中に入れたものはたった一種類だけ。 「実それ、シュトレンを砕いて入れたんです」 「シュトレン! なるほど!」  シュトレンは、クリスマスの時期に食べるお菓子。砂糖でコーティングしてあるから日持ちする。クリスマスまで毎日スライスして食べながら、クリスマスを楽しみに待つ。アドベント的なスイーツだ。  今ちょうど゛季節外れのスイーツ”ってシリーズがコンビニに出てて、スライスしたシュトレンを売っていたからそれを利用した。  隣でイブ先輩も驚いてる。 「クリスマスで食べるやつだよね。これ一つでナッツもドライフルーツも入れたことになるから、素晴らしいアイディアだよ」  コーティングの砂糖は甘味を足すし、サクサクした食感はチョコレートサラミに変化を出してくれる。ラム酒が塗られているから、チョコレートの風味づけになる。中のしっとり感も、また違った食感になる。一石二鳥どころか、n鳥になるシュトレンは凄い。  今日のお菓子も、みなさん喜んでくれた。 「サンキュー、僕のスイート」  イブ先輩が俺の肩を抱き、頬にキスをした。 「イ…イブ先輩っ、こういうことは女の子にしてくださいよ」 「性別関係なく、可愛い子猫ちゃんにはしてあげたくなるんだよ」  と、くしゃくしゃっと俺の髪をかき混ぜる。どうも俺は、イブ先輩にからかわれてそうな―― 「イブ、不謹慎ですよ」  榊会長の鋭い一言に、イブ先輩は肩をすくめた。 「はあい、会長」  眼鏡の奥の目が、冷たく見える。榊会長のあんな表情、初めてだ…。  部室に戻り、後片付けをしようとドアを開けたら、焦げ臭い匂いがした。 「ガスコンロが!」  見ると、三つあるガスコンロのうち、一つが小さくだけど炎をあげて燃えていた。急いで火を消したから火事にはならなかったけど、煙が上がっている。  スプリンクラーや警報機が作動しなくてよかった…と胸をなでおろしていると、伊東先生が慌てた様子で入ってきた。 「遠野! 大丈夫か!」 「あ、はい、大丈夫です」  先生がコンロを見た。紙のような燃えカスがある。 「なんだか焦げ臭い匂いがしたから、急いで来てみたけど…。火の元は気をつけないといけないぞ」  燃えカスに火が残っていないのを確認し、ゴミ箱に捨てて先生は俺を振り返る。 「すみませんでした…。でも――」  部室を出る前にガス栓は閉めたはずだ。第一、チョコレートを湯煎するための湯を沸かしたのは昼休みだ。それをきちんと説明したけど。 「したつもりになって忘れていた、ということもあるな。大事には至らなかったから、次から気をつければいい」  俺は深く頭を下げた。家にいたころからもお母さんから言われてたから、火と刃物には人一倍気をつけていたはずだ。いったい、どうしたんだろう…。  今日のスイーツは、丸ごとモモのタルト。といっても、タルトにモモをドーム状に乗せるタイプじゃなく、逆なんだ。ビスケットをフードプロセッサーで砕き、バターと牛乳を混ぜる。半分に切ったモモにシロップを塗り、外側にタルト生地を貼りつけてラップで包み、冷蔵庫で冷やして馴染ませる。  ひっくり返して種があったくぼみにホイップクリームと、クラッシュしたモモのゼリー、ミントの葉をトッピング。  生徒会のみなさんも、今日は暑いから冷たいデザートが嬉しいと喜んでくれた。  そして、後片付けのために部室に戻ると、今度はただごとではない出来事が起こった。  消防士が二人、部室にいた。白衣姿の伊東先生も。いったい何が…? 「遠野!」  俺が帰ったことに気づいた先生が、かけ寄ってくる。 「オーブンレンジが爆発したんだ」 「ええっ?! オーブンレンジが?!」  爆発音に気づいた先生が、隣の実験室から部室に来ると、オーブンレンジが黒こげ状態だったそうだ。新しいのに…。せっかく理事長や生徒会のみなさんが好意で用意してくれた、最新の製品だったのに…。  先生や消防士の話では、幸い怪我人はいないそうだ。 「遠野…これで二度目だぞ」  さすがに先生も、今度ばかりは眉間にしわを寄せている。 「でも、今日はオーブンを使ってないんです! 火を全く使わないスイーツでした」 「鍵はかけて生徒会室に行ったのか?」 「はい、毎回かけています」  先生は製菓部の顧問であると同時に、科学部の顧問でもある。科学部の部室でもある第一実験室と製菓部がある第二実験室の間に、準備室がある。普段の部活時、伊東先生は科学部の第一実験室か準備室にいる。準備室には危ない薬品もあり、鍵はカードキーになっていて、伊東先生が持っていて勝手に出入りできない。つまり、第一実験室から製菓部の第二実験室まで誰でも自由に出入りできない。製菓部の第二実験室廊下側の鍵は俺が持っていて、生徒会室に行くときも必ず施錠している。  誰かが忍びこんだとは考えにくい。  結局、事故は二度目で原因を調べなくてはならないから、今日から一週間は部活禁止になってしまった。

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