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聖-06
校内の掲示板には、学校行事やクラブ活動の報告など、ちょっとした校内新聞のようなお知らせが貼り出される。
なんとトップの見出しは“製菓部、理事会の定例会で茶菓子を提供”だ。
七月の最後の授業が終わった翌日、午前十時から定例会が行われる。俺はその定例会に、茶菓子を作ることになった。
「遠野! やるじゃん!」
掲示板の前で、中山に背中を叩かれた。
「で、でも…理事長や副理事長、ほかの理事のみなさんに喜ばれるお菓子って…何作ったらいいか」
理事には聖トマス・モア学園の先生もいる。そんな大人たちに喜ばれるお菓子って、何だろう。
「とにかく、こんな大仕事任されるってことは、この間の事故はおとがめ無しなんだな」
「まあ、保留というか…名誉挽回のチャンスみたいな…」
「でも、よかったな!」
あの事故の件を心配していた中山は、とても嬉しそうだ。
教室に戻ろうとしたとき、廊下で榊会長に会った。
「会長! 先日はどうもありがとうございました」
「いいえ、私は思っていたことを話しただけですよ」
「でも…会長が俺のこと、信じてくれただけでも嬉しいです」
会長がにっこり笑って、眼鏡のブリッジを指先で押し上げた。
「当然のことをしたまでですよ。ところで、当日は何を作るか決めましたか?」
「はい、おおよそは決まりました」
夏だし、涼しげなお菓子を作りたい。年配の人も多そうだから、和菓子で。
「当日、もしよければ私もいただきたいのですが」
「じゃあ、生徒会のみなさんの分、用意します」
「いえ、大和も虎牙も実家に帰ります。ジルはご家族とドバイに旅行で、イブはイタリアでショーと撮影があるとかで、授業の後にここを出ます」
「会長は…?」
「私も実家に帰る予定でしたが、君の特別なお菓子が食べられるのであれば、一日延期しますよ」
会長のそんな言葉が嬉しい。俺は当日、会長の分も作ることを約束した。そして、俺の分も。会長と、たった二人のお茶会のために。
早いもので、もうすぐ夏休み。明日の午前中に授業が終わり、その後部活などが無い生徒は、実家に帰る。俺は翌々日の理事会の定例会にお菓子を提供するため居残る。部活の生徒はみんな、居残り組だ。
といっても、俺は定例会のお菓子を作り終えたらもう活動はないから、午後には家に帰るんだけど。
いつものように、生徒会にお菓子を届けた。昨日のうちに作っておいたバナナとクッキー入りアイスクリームに、糸飴細工“シュクレフィレ”をドーム状にしてかぶせたものだ。
「トレビヤン、アラタ! ホテルのレストランで食べるデザートみたいだよ」
キラキラ輝く糸飴はジル先輩の金髪の美しさにはかなわないけど、素人が作っても案外見栄えよくできる。
「ありがとうございます、ジル先輩。砂糖と水を煮詰めたらあとは意外と簡単にできるけど、ゴージャス感が出るんですよね。ケーキに飾っても印象変わりますよ」
スプーンでパリッと飴を割り、中のアイスに絡めて食べる。食感の違う二つのハーモニーをじっくり味わい、魁副会長から笑みがこぼれた。
「明日からしばらく、新太のお菓子が食べられないのは残念だな」
イブ先輩も、それに同調する。
「本当ですね。できれば僕は、イタリアにこのスイーツを持って行きたいけど」
どうやらスイーツとはシュクレフィレのアイスではなく、俺のことらしい。俺の肩を抱き寄せ、イブ先輩は頬にキスをした。
「イブ、生徒会室でそういう行為はいけないと、以前にも注意しましたが」
また、榊会長の冷たい目。眼鏡が氷みたいに見える。風紀には厳しい人なんだな。
「そういう癖はやめろと、いつも言ってるだろ」
イブ先輩の反対側の隣に座っている剣先輩も、榊会長に負けない鋭い目を向けた。
「妬かない妬かない、虎牙。このスイーツ、虎牙と半分こできればいいのにねー」
さらに肩を強く抱き寄せられた。榊会長が睨むけど、それよりお姉ちゃんに見られたら…俺の命は無い。
定例会用のお菓子の材料をそろえ、寮に戻った。中山もまだ寮にいる。八月のお盆の時期から部活は休みになるから、それまでは残るそうだ。
夕食とシャワーを終えたころ、榊会長から着信があった。
「はい、遠野です」
《遠野くん、すぐに製菓部の部室まで来てください。犯人が現れました》
「犯人…って」
《コンロを燃やし、オーブンレンジを爆発させた犯人ですよ》
何だって?!
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