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聖-15
夕食はビーフステーキだ! 分厚い肉が、お店で出るような鉄製のステーキ皿で、ジュウジュウ音を立てている。ナイフで切って、多恵さんお手製のステーキソースをつけて食べる。噛むとジュワーッと肉汁があふれて、その後に旨味や甘味が出てくる。滅多に食べられないぞ、こんな高級ステーキ。
スカーレットも、人間用とは別のソースをかけてもらったのを食べている。人間用ソースは玉ねぎが入っていて、犬が食べちゃいけないそうだ。いいなあ、スカーレットはしょっちゅうこんな高級料理を食べているのかな。
ご飯をおかわりした。多恵さんは、俺がよく食べてくれるから嬉しいそうだ。
「聖様は食が細いことがおありですから」
…ってことは、俺は会長より食べてるのかな。
「ご、ごめんなさい、厚かましくて」
「いいんですのよ、たくさん召し上がっていただければ、作った甲斐がありますから。やはりお若い男性は、こうでないと」
多恵さんから茶碗を受け取り、熱々ステーキをおかずにご飯をかきこむ。
「君と食事をしていると楽しいですね。実においしそうに食べるから、見てて気持ちがいいですよ」
「そ、そうでしょうか」
何となく恥ずかしい。食いしん坊のガキって思われたかな。
「スイーツはいつも生徒会室でいただいてますが、時々は二人で食事に出かけたいですね」
「はいっ」
と元気よく返事したけど…。それって…デート…?
いや、そんなわけないよな。ただ、先輩後輩の間柄で食事をしに行くだけだろうな。
重いお腹を抱えてリビングで休憩した。俺、ここにいる間に太っちゃうかな。
今日はいっぱい泳いで疲れたな。なんだか眠くなりそう…。まぶたが重い…。
「遠野くん、明日は海に行きましょうか」
会長の一声でハッと目が覚めた。このソファー、気持ちいいんだよな。
「海ですか?」
「ええ。海水浴場は、午前中は割と人がまばらです。午後は夕日が沈むまで、クルージングはいかがですか?」
豪華なクルーザーで、沈む夕日を眺める。なんて優雅な夏休み。俺は会長の提案に喜んでオッケーした。
「お休み前に、ジェットバスでのんびりしませんか」
三階に上がった。書斎はお父さんが趣味に使うため、いわゆる“隠れ家”のようなもので、本棚にはレジャーに関する本や小説、美術書、写真集などがほとんどだ。本宅には、仕事に関する医療の本だらけなんだそうだ。
キャビネットには、ボトルシップや帆船の模型がたくさん並んでいる。全部お父さんの手作りだそうだ。ボトルの中を覗くときれいに帆が張られていて、まるで瓶の中に小人が入って作ったみたいだ。
「とても器用な方なんですね。こんな細かい作業ができるなんて」
「凝り性なんですよ」
会長は謙遜するけど、帆船の模型だって今にも動きそうなほどリアルだ。船室まで緻密に作られている。お父さん一人で眺めるのは、もったいない気がする。
廊下に出て奥の扉を開けると、円形のジェットバスだ。室内は正方形で、木の壁に囲まれている。屋根裏部屋っぽく斜めになった天井はアクリル製で、ボタン一つで開閉できる。バスの真上が、まるまる露天になるんだ。
昔はこの辺りに高い建物が無かったらしいが、今はマンションもできたために丸見えになる。だから水着は必須だそうだ。お母さんや妹さんは、大きなビーチパラソルを使うらしい。
バスにつかり、満点の星空を見上げる。
「あれは蠍座ですね」
会長の指差す先には、大きな蠍座の心臓部、明るく光るアンタレス。 ここは星がきれいに見える。こと座やわし座、白鳥座の、夏の大三角形までも。
「気持ちいい~」
スーパー銭湯かプールにでも行かないと入れないジェットバスが、家にあるなんて羨ましい。ジェットバスの気泡が気持ちいい…。お湯はぬるめのを垣内さんが張ってくれてるから、ちょうどいい。バスにつかってる間にもウトウトしてしまった。“のぼせますよ”と会長に起こされるまで、舟に揺られている夢を見そうだった。
「今日は疲れましたね。ゆっくり休んでください」
「はい、おやすみなさい」
俺の寝室は、会長の隣だ。ベランダは一つなぎになっていて、窓からほかの寝室にも出入りできるようになっている。
ウォークイン・クローゼットに、クイーンサイズのベッド。テーブルにソファー。枕元のサイドテーブルには、ステンドグラスみたいなおしゃれなシェードのランプ。
パジャマに着替えてベッドに入ると、もう夢の世界の入り口に来てしまった。明日の夜はもっとゆっくり、会長と過ごせるかな。せっかく、会長と二人きりでロマンチックな星空の下だったのにな…。
いや、ロマンチックとか思ってるのは俺だけか…。
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