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大和-01
(※共通話-08の続きになります)
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“イチゴがおいしい季節だな。イチゴを使った和菓子が食べたい”
魁副会長からだ! リクエストをくれるなんて嬉しい。副会長は、和菓子が好きなのかな。でも、生徒会室には日本茶もあるんだろうか?
イチゴの和菓子…。スタンダードなところでは、イチゴ大福やイチゴが入ったあんみつだろうけど。よし、ちょっと珍しいのを作ってみるかな。
翌日の放課後、部室でお菓子作りを始めた。イチゴを洗ってヘタを取る。そして、食堂からもらってきた、余りのご飯! こいつをちょいと工夫して――
出来上がったお菓子を焼き物のお皿に乗せ、黒文字を和紙で包み(ちゃんと和菓子用の食器まであるのに驚いた)ワゴンに乗せた。ドアをノックすると、いつもみたいにイブ先輩がドアを開けてくれた。
「やあ、子ウサギちゃん」
子猫とかハニーとかいろいろ言われ続けてもう慣れたけど、イブ先輩、もしかして俺の名前忘れたのかな。
「今日は和菓子なんですね」
榊会長が、デスクからソファーに移動する。
「はい、魁副会長のリクエストです」
「俺がイチゴの和菓子を食べたいって言ったからな。お茶は俺が淹れよう」
魁副会長が立ち上がる。
「ここは日本茶もあるんですか?」
「ああ、俺の祖母が茶道の家元で、俺も茶を習ったからな」
凄い! 武道だけでなく茶道もできるなんて!
ステンドグラスみたいな衝立で区切られた向こうは給湯室。俺もお茶を運ぶ手伝いをした。本格的な茶碗に、魁副会長が抹茶を入れる。お湯を入れ、茶筅で混ぜる。普通の茶道とは違って立ったままの作業だけど、慣れた手つきは見とれてしまう。
「ねえアラタ、これ、桜餅だよね?」
「はい、関西風の桜餅です」
ジル先輩には日本の菓子はどうかなと不安だったけど、携帯で写真を撮ったりして喜んでくれている。
「ジル先輩、俺が知っている桜餅と少し違うようですが」
剣先輩が不思議そうに眺める。俺が作った桜餅は、ピンク色で粒々が残った丸いおはぎのようなお餅を、桜の葉の塩漬けでくるんだもの。
「タイガが知ってるのは、小麦粉の皮で巻いた関東風の桜餅でしょ? これは関西風の桜餅。僕は実家が京都だからね。京都はこの、道明寺粉で作った桜餅だよ」
ところがどっこい、俺の桜餅はちょいと違う。
「これ道明寺粉ではなくて、食堂の残りもののご飯で作ったんですよ。だから、なんちゃって桜餅」
「ご飯で? やるね、ハニー」
イブ先輩も驚いている。そんな俺流桜餅の作り方は、ご飯に水溶き片栗粉と食紅、砂糖を入れて、ご飯を潰すようによく混ぜる。レンチンしてモチモチッとなったご飯でイチゴを包んだ餡をくるんで、桜の葉の塩漬けで包んで出来上がり。
俺もソファーで抹茶をいただく。抹茶って苦いだけの飲み物だと思ったけど、いい香りがして和スイーツとの相性がいい。今日のお菓子は餡が甘いけど、口の中に残る甘ったるさをお茶が和らげてくれる。ようかんや落雁、ねりきり、羽二重餅、団子――お茶に合いそうな和菓子がいっぱい浮かぶ。抹茶を使ったお菓子も作ったことがあるけど、そういえばお茶って虫歯予防の成分があったよな。
「新太、この学園にはもう慣れたか?」
と俺に尋ねたのは、向かい側に座っている魁副会長。
「はい、寮も同室でクラスでも席が隣同士の中山とは仲良くなったし、設備が素晴らしい学園で毎日楽しいです」
「そうか、楽しんでくれて何よりだ」
大きな手で茶碗を包む。魁副会長の手は大きくて竹刀が似合いそうなのに、今は無骨さを感じない。茶筅を使っているときも、繊細そうに感じた。
「でも…」
「どうした?」
魁副会長がテーブルに茶碗を置いて、俺の方に少し身を乗り出す。
「勉強が、ついていくのがやっとですね。体育もハードだし」
進学組では、一年生の間に普通の高校三年間の勉強を終えてしまうらしい。俺たち芸術組やスポーツ組はそこまでではないけど、それでも高校の勉強は一気に難しくなる。
勉強だけじゃない。体育なんて、最初は筋トレやランニングで体力をつけ、もうすぐボルダリングも始まる。室内プールで、冬でも水泳がある。秋には球技大会にむけて、クリケットもあるそうだ。
「よかったら今度の日曜日、勉強を教えてやるぞ。筋トレも効果的な方法を教えてやる」
「で、でも…ご迷惑になりますから…」
「全然、迷惑じゃないぞ。一年生の範囲なら簡単に教えられるし、運動も俺が体を動かすついでだからな」
剣道部が廃部になってからも、魁副会長は素振りやランニング、筋トレで体を鍛えているそうだ。元々は学園から剣道でスカウトされたそうだから、きっとスポーツ万能なんだな。
「じゃあ、よろしくお願いします」
次の日曜日、魁副会長の部屋で午前中に勉強を教えてもらい、午後はトレーニングをすることになった。
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