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大和-14

「さて、新太、泳ぐか!」  起き上がった魁副会長は、もう一度ストレッチをする。俺も膝の屈伸したり腕を回したり。充分体をほぐしたところで海に飛びこんだ。 「気持ちいい~! 海なんて久しぶり!」  平泳ぎで調子に乗って泳いでたら、足がつかない所に来てしまった。クロールで俺のそばに来た副会長も、爪先立ちで顎がつかってしまう深さだ。遊泳区域のブイはもう少し向こうにあるから、もっと泳いでも大丈夫だろうけど。 「この辺は水が冷たいな」 「もしも足がつったら大変だから、砂浜に近い所に移動しますね」  立ち泳ぎで浮いてるのも限界だ。俺はまた、平泳ぎで反対方向に向かう。副会長は海に潜る。そのまま潜水で進むんだな。  足がつく位置まで来た。ガンガン泳ぐ人やゴムボートの人は深い所にいるけど、波打ち際は小さな子供が多い。あ、小さな砂の山が波で流れた。なんて辺りを見回していたら、急に足をつかまれた。そのまま体が宙に浮く。 「うわあっ!」  気づいたら俺は、副会長に肩車をされていた。副会長は潜水して、俺の下に潜っていたんだ。 「どうだ、高いだろう?」  俺を肩に担いだまま、海の中を歩く副会長。すごい…。水の抵抗に加えて、五十三キロの俺を担いで歩けるなんて。力持ちで頼もしい。…なんて関心してる場合じゃなかった。 「下ろしてくださいよ~、恥ずかしいですよ!」  副会長の肩に乗って、俺はじたばたと暴れた。 「わかったわかった、下ろしてやるよ」  そう言うと副会長は、俺の太ももあたりをガッシリつかんで頭を抜いた。そのまま俺は海に落ちる。 「ぷはあっ」  海の中から上がって最初に見たのは、副会長の笑顔。太陽がよく似合う。 「よし、今度はおんぶしてやろうか?」  と、俺の方に背を向ける。副会長の肌と俺の肌が直に触れる…。戸惑いもあったけど、ここは開放的な海。まわりに知り合いはいない。そんなふうにじゃれたって、たまにはいいだろう。俺は“えいっ”と思い切りタックルするみたいに、広い背中にしがみついた。 「このまんまで泳げますか?」 「了解、楽勝だ」  俺を乗せた広い背中が、ふわっと浮き上がる。平泳ぎで波打ち際とは反対方向にスイスイ進んで、気づけば水が冷たくなっている。人も少ない。 「副会長、この辺危ないですよ。ほら、ブイがもう近くに」 「この辺でしばらく泳ぐか」  俺は広い背中に乗って、ほんのひととき、副会長と二人きりの時間を過ごす。まわりには誰もいない。遠くの方で大きな浮き輪を使っているカップルがいる。あの人たちみたいに俺と副会長も密着していると思ったら、急に心臓が痛いほどドキドキしてきた。  しばらくブイの手前で泳いでいた副会長は、砂浜の方に引き返した。浅い場所では、子供たちがビーチボールで遊ぶ。シュノーケルをつけて潜っている子供もいる。 「お客さーん、到着ですよー」  なんておどけて言う副会長に俺も答える。 「料金はいくらですか?」 「そうですねー、今日は特別サービスしますよ…っと」  そう言うと副会長はいきなり立ち上がり、背中をそらせた。俺はまた海に落ちる。 「ひどいですよ~」 「ハハハッ、日射病にならないように、頭を冷やしておいてやったぞ」  いっぱい海でふざけ合った後、副会長が“腹減ったな”と海の家の方を見る。 「そうだ、焼きそば食べないか?」 「はい、食べます!」  味噌丼を食べたのは昼前。運動したら少しお腹がすいた。  海の家では焼きそばのほかにカレーライスやうどん、それにおでんもあって、飲み物やかき氷も売っていた。開いてるテーブルに座る。やたらと強い扇風機に、濡れた髪が煽られる。焼きそばとおでん、それとオレンジジュースを二つ、注文した。  焼きそばとおでんは、それぞれ半分こ。副会長が厚揚げやじゃが芋などを割り箸で半分に割ってくれた。でも、こんにゃくだけはそのまんま。 「新太は伊勢に来たのは初めてか?」 「はい、初めてです。海が意外ときれいですね。それに泳ぐだけでなくて、ウィンドサーフィンやってる人も多くて」 「ああ、兄貴やはとこと来たときには、ジェットスキーやウィンドサーフィンを教えてもらった。いつかマスターするから、そのときには新太にも教えてやるぞ」 「本当ですか? 楽しみにしてますっ」  いつかまたこうして海に来て、副会長と二人でジェットスキーやウィンドサーフィンをする日が来るんだろうか…。 「新太、こんにゃく食え」 「えっ? いらないんですか?」  スチロールの器には、丸のままこんにゃくが残っている。 「俺、こんにゃく苦手なんだよ」  いつもキリリとりりしいはずの眉が下がった。副会長にも苦手なものがあるんだ…。 「どうした、新太?」  あることを思いついて、俺は吹き出した。 「こんにゃくでお菓子が作れないかなあって」  副会長もつられて笑う。 「まいったな。でも、こんにゃく嫌いを克服できるかもな」  そう言って副会長は箸でこんにゃくをつかみ、俺にくわえさせた。…副会長の箸で…食べさせてもらうなんて…。  それから後は、何を話しただろうか。舞い上がった俺は会話の内容を覚えていない。

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