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ジルベール-05
ジル先輩から二度目のリクエストをもらい、買ったばかりのワッフルメーカーでワッフルを焼いた。
この窪み、クリームを入れるのにもってこいなんだよな。今日はグラニュー糖を入れてホイップしたマーガリンに、お湯で戻したレーズンを混ぜたものを挟んでみた。レーズンパンに切りこみを入れて、マーガリンと砂糖のホイップを挟んだものを、お母さんがよく朝食に作ってくれた。そこから思いついたんだ。生徒会のみなさんにも好評。マーガリンの塩っ気と砂糖とレーズンの甘みがよく合って、なんだか懐かしい味だって。
「遠野くん、理事会の方から、茶話会出席者の名簿が来ました」
お茶の時間が終わってから、榊会長がそう言った。
「人数は二十人で事前にアンケートを取りましたが、全員アレルギーなどは無いそうです。お菓子の準備は大丈夫ですか?」
「はい、大きなケーキ型で焼きますから、ホール一つで十等分します。オーブンは二段あるので、一回で焼けますから大丈夫です」
焼き上がったらカットして、ホイップクリームを添えるだけ。盛りつけが簡単だから、焼く時間と粗熱を取る時間さえ確保できればいい。午前十時までには出来上がる。
「…ということは、僕らにはおこぼれは無し、だね。残念~」
「ジル先輩、生徒会のみなさんには、またチーズケーキを焼きますよ。また、デンマーク製のクリームチーズが買えたら」
理事長や寄付をしてくださる会社の重役の方々が出席する茶話会という大仕事は緊張するけど、おいしく食べてもらうのは普段も同じこと。いつもどおりで大丈夫。
土曜日の朝、七時半。オーブンを温めるためにスイッチを入れたとき、ノックの音がした。
「はい、どうぞ」
「ボンジュー、アラタ! 手伝いに来たよ!」
「ジル先輩、わざわざすみません、助かります」
ジル先輩には、お茶の用意を頼んだ。お茶はアイスティー。ミルクとシロップ、切ったレモンを添えて出す。
俺はチーズケーキの準備にかかる。薄力粉、砂糖を出し、冷蔵庫を開けた。オレンジ、牛乳、卵――あれ?!
「クリームチーズが無いっ…!」
「何だって?!」
昨日はちゃんと、冷蔵庫の中にクリームチーズの箱があった。買った日から、ずっと冷蔵庫に入れていた。どこに行ったんだろう…。生物だから、冷蔵庫から出すなんてことはしないはず。
「とにかく、お菓子作りはしなきゃいけない。アラタ、今あるもので何か作れる?!」
「…オレンジクッキー…、オレンジケーキ…」
作れることは、作れる。でも、ありふれたお菓子だ。せっかく、デンマーク製のいいクリームチーズが手に入ったから、とびきりおいしいチーズケーキができると思ったのに…。
「普通のじゃだめだ…ほかに何か工夫しないと…」
どうしよう…。混乱して、考えが浮かばない。考えないといけないのに、クリームチーズはどこに、そればっかりが頭の中を駆けめぐる。涙まで出てきた…。
「アラタ…」
気がつくと、ジル先輩に抱きしめられていた。フワッと、バラのようないい香りがした。ジル先輩の金髪からだ。きっとバラの香りのシャンプーを使ってるんだろうな。
「泣かないで、アラタ。時間内に何を作るか考えよう。今まで作ったものを思い出してごらん。たくさんお菓子を作ったでしょ? 大丈夫、アラタならできるよ」
優しい声に救われた。もし一人ぼっちだったら、俺は荒れていたかもしれない。仮病を使って、お菓子作りを放棄したかもしれない。落ち着いて考えるんだ。クリームチーズがどこに行ったかは、後で考えよう。
チーズケーキ…。高級なクリームチーズを使ったチーズケーキなんて、家にいたときに作ったことはない。あるのは、普通のクリームチーズを使ったのと――
「あーっ!」
「どうしたの、アラタ?」
驚いたジル先輩が、パッと飛び退いた。
「ジル先輩、近くのコンビニにおつかい頼めますか?」
「う、うん…。何を買うの?」
「ヨーグルトです」
青い目を丸くして驚いたままのジル先輩が、もう一度俺に尋ねた。
「ヨーグルト…だけでいいの?」
「はい」
ジル先輩に部費を渡し、コンビニに急いでもらった。俺はその間にオレンジをスライスして、小麦粉をふるって待つ。
「アラタ、ヨーグルト買ってきたよ!」
「ありがとうございます! 助かりました!」
ヨーグルトと粉チーズを、生地に混ぜる。粉チーズは、前にチーズ入りクッキーを焼いたときの残りだ。ケーキ型に流し、空気を抜いて、スライスしたオレンジを乗せる。
「これ、どんなケーキになるの?」
「チーズケーキです。チーズケーキそのものになりますよ」
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