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ジルベール-14
八坂神社の後は、歩いて新京極へ。そこで昼ご飯を食べて、いろいろ買い物をしようということになった。
お土産屋さんが並ぶ通りには、小さな神社もある。
「凄い! アニメショップやゲームショップもある!」
隣の通りには、アニメショップやゲームショップ、服や靴を売っているお店もある。
「この辺りは外国の観光客や修学旅行生が、買い物をしていくからね」
修学旅行はほとんどお寺と神社めぐりで、ショッピングを楽しめるなんてこと無かったからなぁ。
「そういえば修学旅行のとき、お土産で木刀とか買うのを禁止されてましたよ」
「あっははは! 危ないからっていう理由もわかるけどねー。買う物を規制されたら、ショッピングが興ざめしちゃうね。あ、あのお店でランチしようか」
ウッディ調のレトロなカフェ。手書きの黒板の看板には、ランチのセットメニューが書かれてある。
二階席もあって中は広い。二階に上がり、窓際の席に向かい合わせに座った。メニューを広げると、表紙の裏に“お誕生日のお客様にはケーキをプレゼントいたします”とあった。
「ラッキー! 俺、ケーキもらえちゃいますよ」
誕生日がわかるもの、保険証や免許証などがあれば、メニューにあるケーキを一つくれるらしい。
ジル先輩が、メニューから顔を上げた。
「えっ…? まさか、今日アラタの…」
「はい、八月二日が誕生日です」
青い目を丸くした後、“Bon anniversaire !”と、笑顔で祝ってくれた。
「なーんだ~…。知ってたらプレゼント用意したのに~…」
「京都に呼んでもらえて、こうして遊んでもらってるから、充分嬉しいプレゼントですよ」
「可愛いこと言ってくれるね」
なんて無邪気な笑みを向けられたら、本音なんか恥ずかしくて言えない。もしも、“ジル先輩といっしょにいることが、何よりのプレゼントです”って言ったら、返事に困るだろうな…。
ジル先輩はオムライス、俺はカレーのランチを頼んで、店員さんに生徒証を見せて誕生日である証明をして、チョコレートケーキも頼んだ。
「ジル先輩の誕生日はいつですか?」
「十一月十一日。フランスでは、第一次世界大戦の休戦日の祝日だよ」
「じゃあ、その日に何かプレゼント考えようっと」
なんて言ったけど、ジル先輩が欲しい物がわからない。誕生日が近くなったら、それとなく聞いてみよう。
「プレゼントねー…。丸一日、僕とデートしてもらおうかな」
「ふぇっ?!」
いきなりのことで、変な声が出てしまった。どうしよう…周囲の注目を浴びてる。
「嫌かな?」
「い、嫌じゃないです、全然っ。でも、そんなふうに言われるとか…思ってもみなくて、その…」
と、あたふたしてたら料理が来た。ほどよい辛さで野菜がゴロゴロ入って、家庭料理って感じのカレーがとてもおいしい。
そんなおいしい料理のおかげで、デートの話は中断になったけど、実際に当日が来たらどうなるんだろう。あれは冗談だった、で終わるのかな…。
食事の後は、アイスコーヒーとチョコレートケーキが来た。ケーキはチョコレートがコーティングされていて、チョコクリームとイチゴのトッピングつき。
「ジル先輩、ケーキ半分ずつしませんか?」
「僕ももらっていいの?」
「いいですよ。俺一人が食べるのも悪いし。ジル先輩から先にどうぞ」
チョコレートケーキにフォークを入れ、一口分取ったジル先輩は、そのフォークを俺に向けた。
「はい、まずは今日の主役からね」
ええーっ?!
ここで“はい、あ~ん”するのー?!
恥ずかしいけど口を“あーん”と開ける。甘くとろけるチョコレートが、口の中に広がる。スポンジケーキもフワフワだ。ここは軽食もあるけど、ケーキ主体のカフェだ。レジ前のショーウィンドウにはケーキがたくさん並んでいて、テイクアウトもできるそうだ。
三分の一ほど食べ終えた後に、ジル先輩が尋ねた。
「アラタはケーキのイチゴ、最後に残しておくタイプ?」
「はい、だってケーキのイチゴは主役でしょ? 後のお楽しみに取っておきたいってゆーか」
イチゴをフォークで刺そうとしたジル先輩は、ケーキの方にフォークを入れた。
「僕はね、最後に取っておきたいけど、途中で我慢できなくて食べちゃうタイプ。待ち切れないんだ」
ちょうど半分食べさせてもらい、最後のお楽しみ、イチゴをもらった。
甘酸っぱいイチゴに、チョコクリームがついている。最後のお楽しみにふさわしい味だ。
「おいしい~! ジル先輩も食べてくださいよ」
と、促したらジル先輩も残りのケーキを食べ始めた。…でも、これ…同じフォークなんだよな…。って思ったら、急に顔が熱くなって、慌ててアイスコーヒーを飲んだ。
「ほんと、おいしいね、ここのケーキ」
ケーキを食べ終えたジル先輩も、アイスコーヒーを飲む。
「ケーキのイチゴなら、誰にも取られる心配はないけど。途中どころか、最初っからがっついていかないと、誰かに取られちゃうかもね」
「えっ…?」
どういう意味だろう…。ジル先輩はそれから少しの間、アイスコーヒーを飲みながら真剣な表情で、窓の外を眺めていた。
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