69 / 127
イブ-01
(※共通話-08の続きになります)
*********
ええっ?!
《次のお菓子、君が食べたい》
イブ先輩だ。そんなドキッとするような冗談言ったりするから、ビックリした。
あ、またメッセージだ。
《君みたいに可愛いイチゴが食べたいな》
思わず辺りを見回してしまった。別に誰も覗いたりしないだろうけど、もしも誰かに見られたら恥ずかしい。
か…可愛いって…。俺、どう見ても普通の男だと思うけど。
俺みたいかどうかはともかく、イチゴかあ。ちょうど旬だな。一応、お菓子に使えそうな野菜や果物の旬は、おおざっぱにだけど覚えてる。
《わかりました。次にイチゴのお菓子を作ります。楽しみにしててください》
と、返事を送ったら、またすぐにメッセージが届いた。
《ありがとう、僕のstrawberry》
ははは…、そういうのは女性に言ってほしいな。イブ先輩ファンのお姉ちゃんに見られたら、殺されるな…。
昼休みに、イチゴとマシュマロを切っておいた。イチゴがとてもいい香りがして、いかにも新鮮って感じだった。そのまま食べてもいいぐらい。このおいしさを損なわないよう、今日も腕によりをかけよう。
クルミとアーモンドはビニール袋に入れて綿棒で砕き、メープルシロップに漬けておいた。その下ごしらえのおかげで、手早く作れる。
後は、バニラアイスにイチゴとイチゴジャム、マシュマロを混ぜて冷凍庫で冷やすだけ。
放課後部室に入る前に、廊下で“遠野くん”と声をかけられた。振り向くと、俺より小柄な生徒。目が大きくて色白で、女の子に間違えられそうな。彼は確か――
「製菓部の遠野新太くんだね。僕、一年A組の神楽坂直樹 っていうんだ」
「確か…入学式で、新入生代表の挨拶をしたよね?」
「覚えててくれて、光栄だな」
代表の挨拶は、普通入試で一番成績がよかった者がする。神楽坂くんは、トップの成績で合格したんだ。
俺たちの芸術クラスやスポーツクラスは三年間クラス変えが無いけど、進学クラスは成績の上位四十名がA組、それ以下はB組になる。後期のテストでまた、上位四十名がA組、それ以下はB組に分けられるから、二年、三年でクラスメイトが入れ替わることもある。
さらに三年生は、全単位を取得したS組もあるから、一クラスの人数が減ることがある。今年のS組は榊会長を含めて十人いる。だから三年のA組、B組はそれぞれ三十五人ずつだ。
学年一成績優秀な神楽坂くんが、俺に何の用だろう…?
「あ、あの…俺に何か用?」
神楽坂くんは、愛想のいい笑みを浮かべた。
「僕、製菓部に入りたいんだけど」
そして、入部希望の書類を見せる。
「……」
思いがけない話に、俺は一瞬返事を忘れて書類に目が釘付けになった。
「あの…遠野くん?」
「本当…? 本当に入ってくれんの?」
「そうだよ、僕もお菓子を作りたいんだ」
嬉しい! 同じ趣味を持つ人と同じ部活ができるなんて!
もっと人数増えたら、合宿なんかもできるかな。巨大なお菓子の家とか作れるかな――って、少し気が早いぞ。
「どうぞよろしく! 早速、今日からお菓子作りを手伝ってもらうよ」
と、神楽坂くんの手を取り握手した。
「“くん”付けはよそよそしいから、神楽坂…いや、直樹って呼んでいいかな? 俺も“新太”って呼んでくれていいから」
「よろしくね、新太」
部室に入り、隣の準備室にいる顧問の先生に入部希望用紙を提出した。これで直樹は正式に、製菓部の部員だ! 人数が増えたら、直樹は副部長ってことでいいかな。
「エプロンは、予備のを貸してあげるよ。近いうちにスーパーかデパートで買ってきて。部費で落ちるから」
手を洗ってエプロンをつけ、冷蔵庫から今日の材料を出した。
「今日は昼休みに下ごしらえをしたから、簡単なんだ」
バニラアイスにカットしたイチゴとマシュマロ、イチゴジャムを入れて、混ぜるのを直樹にやってもらった。
その間に俺は、ガラスの器とスプーンを用意する。
「一時間ほど凍らせたら、生徒会室に持って行くね」
「あれ…? 新太、器が七つもあるけど…?」
ワゴンに重ねてあるガラスの器を見て、直樹は不思議に思ったみたい。
「生徒会のみなさん五人分と、俺と直樹の分。俺たちもいっしょにお菓子を食べるんだ」
直樹は大きな目を見開いて、さらに大きくした。
「いつも生徒会室でお菓子をいっしょに食べてるんだ! …いいなあ…。もっと早く入部したかった…」
「あははっ、最初は俺もいっしょに食べるつもりじゃないから、お誘いは嬉しかったよ。おかげで高級なコーヒーや紅茶を、毎日飲めるよ」
直樹も、甘い物が好きなのかな? だったら、俺ももっと早く直樹に入部してほしかったな。
アイスを冷やす間に、部室のことをいろいろ教えてあげた。コンロやオーブンを使うときの注意、包丁やピーラーなど刃物を扱うときの注意。
「それから、人に食べてもらう物を作るから、風邪や下痢のときは必ず休んで。手に怪我があるときは、部室に来てもいいけど食べ物や食器は触らないように」
一通り説明を終えた後、直樹は“アイスはまだ?”としきりに聞いてくる。しっかり冷やしてなじませないといけないから、待ち遠しくてもまだ、と冷蔵庫を開けようとする手を止めさせる。
一時間たった。アイスがいい具合に冷えたので、クーラーボックスに入れた。ナッツのメープル漬けソースをガラスジャーに詰め、生徒会室に出発!
ともだちにシェアしよう!