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イブ-03

「こうして自分でスイーツ作りなんて、初めてですよ」  榊会長がたこ焼き器で焼いた丸いホットケーキを、ピックでひっくり返す。生徒会のみなさんは頭がいいだけでなく、手先も器用なのかな。やり方を一度教えただけで、きれいにひっくり返してくれる。剣先輩は料理が得意らしいけど、たこ焼き器は初めてだそうだ。 「これの中身は、何だっけ?」  魁副会長が、ピックで焼き上がる前のをつつく。 「そっちはバナナですね。この列はチョコレート。こっちがクリームチーズ、こっちはあんこ」  ホットケーキの素をたこ焼き器に流し、四種類の具を入れて焼くんだ。これは実家でもやったけど、みんなでワイワイ言いながら作れるのが楽しい。 「焼き上がった~。何つけようかな」 「ジル先輩、それはあんこだから、ホイップクリームがおすすめですね」  用意したのはホイップクリーム、ナッツクリーム、チョコレートソース、イチゴジャム、はちみつ。焼き上がったものに乗せたり絡めたり。みなさんそれぞれ、好きな具に好きなトッピングをする。好きなものを選べるから、とても好評だ。 「クリームチーズにはちみつって、意外と合うな」  剣先輩も気に入ってくれたようだ。 「チーズだけのピザって、はちみつかけて食べてもおいしいですよ」 「そうだな、ブルーチーズにはちみつもおいしいし」  イブ先輩、もしいたら何を気に入ってくれたかな。今日は直樹もいない。全員そろったときには、またこれを作りたい。  そうだ、後で直樹にはちみつを届けよう。喉が痛いって言ってたから、はちみつがいいかも。  後片付けをしてから、はちみつを小瓶に入れて寮に戻った。直樹の部屋をノックする。けど、部屋には誰もいない。もし直樹の具合が悪くて眠っていたら、と思ってそれ以上ノックしなかった。  夕食のとき、寮の食堂に直樹がいた。友達四人と楽しそうに話しながら、食事をとっていた。今日の夕食はビーフストロガノフだけど、食べて大丈夫なんだろうか。喉にはきついんじゃ…。 「直樹、具合どう?」 「あっ、新太…」  驚いたように、直樹はスプーンを置いた。 「喉の調子は? ご飯食べて大丈夫?」 「あ、あの…。今は大丈夫だよ。大したことなかったみたい」 「そっか、よかった」  軽い風邪でよかった。明日は揚げ物をするから、人手があると助かるし直樹にも来てほしい。何より想像以上においしいものだから、食べてほしいってのもあるけど。  イブ先輩にも食べてほしいけど、明日はいるんだろうか…?  翌日の昼休み、イブ先輩からメッセージが来た。当分の間のスケジュールだ! 来週もまた、別の雑誌の撮影があって、夏休みにはイタリアでショーがあるそうだ。大変だなあ…。レベルの高い勉強に生徒会活動、その上モデル業で疲れるだろうな。そんな疲れを吹き飛ばすには、やっぱり甘いものだな。  放課後、直樹は部活にやって来た。 「新太、今日は何作るの?」 「アイスクリームの天ぷらだよ」 「ええっ? アイスクリーム? 天ぷらにして、溶けない?!」  ふふっ、“アイスクリームの天ぷら”と聞いて、初めての人はだいたいそんな反応だ。 「大丈夫。アイスクリームをカステラで包んで、衣につけて揚げるからさ」  カステラをスライスし、ディッシャーで丸めたアイスクリームを包む。天ぷらの粉は、市販の水で溶いてできる簡単なもの。揚げた後、油を切って少しだけ塩を降る。  アイスクリームが溶けないよう、クーラーボックスに入れて急いで生徒会室へ。 「やあ、二人とも、いらっしゃい」  出迎えてくれたのは、いつものようにイブ先輩。 「こんにちは、イブさん」  直樹が俺に変わってワゴンを押す。テーブルに皿を置くと、一昨日のようにイブ先輩の隣に陣取った。  アイスクリームの天ぷらは聞いたことがあるけど食べるのは初めて、というみなさんに堪能してもらった。外はサクサク、中はトロリ。衣の塩がきいて、甘いアイスクリームがほんのり塩バニラ。生徒会のみなさんが絶賛してくれる中、直樹が“キッ”とこちらを睨む。 「新太、アイスクリームも天ぷらもカステラも、カロリー高いんじゃない?」 「うーん…、気にしたことないけど、多分高いよね」 「毎回こんなカロリー高いものを食べるなんて、イブさんにはよくないよっ。もう少しローカロリーのものがいいよ」  そうだった…。イブ先輩はモデル。太ったりしたら大変だ…。 「大丈夫だよ」  アイスクリームの天ぷらを完食し、イブ先輩がにっこり微笑む。 「ここの体育の授業がどれだけハードか、君たちも知ってるよね」  聖トマス・モア学園は文武両道のジェントルマンを育てる、をモットーにしている。だから体育の授業もレベルが高い。身体能力を高めるために、筋トレやボルダリングといった、あまりほかの学校ではやらないような内容もある。 「それにね、僕は時間があるときには、筋トレやヨガもやっているから」 「さすが! 体型維持に余念がないんですね」  紙ナプキンで口元を拭き、“まあね”とイブ先輩が答える。それでも直樹はご機嫌ななめで俺を睨んでいる。そうだよな、いくらイブ先輩が太らないよう注意してても、俺たちが不注意じゃいけない。 「あの…これからはカロリー低いお菓子もいろいろ用意します。和菓子やゼリー、野菜や果物を使えば、バリエーションはいっぱいありますから」 「ありがと、子猫ちゃん」  上機嫌でイブ先輩は俺にウィンクをくれたけど、直樹はいまだ、機嫌が悪いままだった。

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