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イブ-05

 授業中、部活のことで考え事をしていたら、あまりにもボケーッとしていたのか先生に注意された。  部長として、どうやって直樹と接していいのかわからない。ことあるごとに“どうしよう”という言葉が浮かんでしまう。部長として、なんて難しく考えなくても、普通に友達として中山みたいに気軽に接することができれば、それでいいんだけど。  今日はイブ先輩が仕事でいない。そして直樹は“用事があるから行けない”と言ってきた。おかしい。直樹はイブ先輩がいない日に、必ず部活を休んでいる。授業には出ているようだ。となるとやはり、直樹の入部目的はイブ先輩? 生徒会にお菓子を提供するという話を聞いたから?  別に毎日部活に出ろと無理強いをするわけではない。直樹は進学組だ。俺よりハードな授業内容だし、課題だって相当なものだと思う。なにせ、一年で普通の高校の三年間の授業を終えるんだからな。それに、製菓部はとくにほかの部のように何か成果を挙げるよう、ノルマを課せられているわけではない。  だからといって、イブ先輩に会いたいために入部したのだとしたら――やっぱり、一度ゆっくり話をするべきだろうか。  放課後、出来上がったお菓子を運んで、生徒会室に来た。ドアを開けてくれたのは、いつものイブ先輩ではなく剣先輩。テーブルに、今日のスイーツであるカクテルグラスを置いた。 「これは、涼しそうなデザートですね」  榊会長が、グラスの中身を眺める。 「トマトのゼリーです。さっぱりしてて、これからの時期にぴったりですよ」  フルーツトマトを湯剥きして種を取り、はちみつに漬ける。それをゼリーで固めて、ミントの葉を飾った。ちょっとおしゃれに、器はカクテルグラスを使った。 「C'est a la mode(セ アラ モード)(おしゃれだね)! パーティーのメニューによさそうだね」  ジル先輩が写真撮影をする。 「甘い…。トマトだから酸味があると思ったが。まるでフルーツだな」  魁副会長も、気に入ってくれたみたい。 「はい、もともと甘い品種のトマトで、それをはちみつに漬けているから、果物顔負けの甘さでしょ?」  食べ終わったころ、剣先輩が残念そうに言う。 「イブのやつもいたら、いっしょに食べられたのにな」 「大丈夫ですよ、剣先輩。イブ先輩の分は、ここの冷蔵庫に入れておきます」  生徒会室には、小さい冷蔵庫がある。飲み物のためにミルクを冷やしたり、氷を作ることもあるから。  手作りお菓子はあまり日持ちがしないけど、ゼリーなら翌日食べても大丈夫だ。当日じゃなくても食べられるものは、イブ先輩がいないときでも用意しておいて冷蔵庫に入れておく。  イブ先輩には、“今日のスイーツ、トマトゼリーが生徒会室の冷蔵庫にあります”とメッセージを送っておいた。  夕食の後にシャワーをして、部屋のベランダに出て涼んでいると、イブ先輩から着信があった。 《ハーイ、子猫ちゃん。今から会えないかな?》 「今からですか?」 《うん、少し話をしたくてね》  門限は過ぎてるけど、消灯時間にはまだ時間があるから、寮の敷地内なら大丈夫だ。すぐに出ますと返事して、俺は寮の外に出た。  一年生棟と二年生棟の間に植え込みがあり、そこでイブ先輩が待っていた。仕事を終えシャワーも済ましたみたいで、ラフな部屋着姿だった。 「やあ、ハニー。今日のゼリーもおいしかったよ」  優しい笑顔で、イブ先輩がそう言ってくれた。トマトゼリー、今日食べてくれたんだ。仕事帰りに夕食を済ませたイブ先輩は、学園に戻ってから生徒会室に行き、夕食後のデザートとしてゼリーを食べてくれたそうだ。 「よかった~。イブ先輩のために、できるだけローカロリーなお菓子の方がいいかなって考えたんです。それにみなさんと同じく、イブ先輩にも俺のお菓子、食べてほしいし」  ふわっと、イブ先輩の手のひらが頭の上に乗った。イブ先輩の手が俺の頭上に?! たったそれだけなのに、心臓がドキドキして痛い。 「ありがとう、僕のことを考えてくれてて」 「い、いえ、そんな…」  イブ先輩が少し背をかがめた。長い前髪から覗くブラウンの瞳が、俺を捕らえる。イブ先輩…かっこいいのは前から知ってたけど、目が本当にきれいだってことは、今気づいた。 「じゃあ、もっと僕のことを考えてもらえるように、魔法をかけてしまおうかな」 「魔法…?」  そう聞いたとき、視界が塞がれた。いや、塞がれたのは唇で。  ええーっ!  イブ先輩にキスされてる?!  いきなりのことで硬直してしまい、目の前の閉じたまぶたを直視していた。…まつげ長い…。  チュッと濡れたような音を立てて唇が離れた。どうしよう、頭がボーっとして、何にも考えられなくなって、顔が熱くて…! 「ごちそうさま、僕のsweet」  長い指をひらひらと振って、イブ先輩は去って行った。俺の、ファーストキスを奪った人――

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