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虎牙-01

《イチゴが旬だから、イチゴのお菓子を食べてみたい》  剣虎牙先輩だ。クールで目つきが鋭くて、生徒会の中では一番背が低いみたいだけど、それでもみなさんとあまり変わらないから百八十近くありそうだ。スイーツってイメージは無さそうだけど、好き嫌いがあまりないみたいで、何でも食べてくれる。  イチゴのお菓子かあ…。クールな剣先輩とイチゴ。似合わなそうな気がして、思わず吹き出してしまった。できるだけヘタがみずみずしく艶があるイチゴが入ったパックを選び、カゴに入れた。  翌日、剣先輩のリクエストどおりに、イチゴのクレープを作る。クレープ生地は、焼かずにレンチンする。焼くと火の加減が難しくて生地が硬くなったり焦げやすかったりするけど、電子レンジなら焦げる心配もなく、もっちりと仕上がる。お皿にラップを貼り、その上に生地を伸ばしてレンチンするだけ。  スライスしたイチゴを乗せ、コンデンスミルクをかけて畳んで、いちごとホワイトのチョコレートをチェック模様にかけ、アラザンをまぶして出来上がり。 …色合いが、乙女風な感じになってしまった…。生徒会のみなさんは男性だし、抵抗あるかな? 特に魁副会長や剣先輩みたいな人は、あまりこういうのは食べないかも。という不安はあったけど、ワゴンに六つのお皿を乗せ、生徒会室に向かった。 「ハーイ、子猫ちゃん」  ドアを開けてくれたイブ先輩に挨拶して、生徒会室に入った。 「みなさん、お疲れ様です。今日のお菓子は、イチゴのクレープです」  ピンクと白のチェック模様の上に、銀色の粒々。おしゃれをしたもっちりクレープの端から、赤いイチゴが顔を覗かせる。 「これはまた、今日は可愛いスイーツですね」  榊会長が、穏やかな笑みを浮かべる。 「クレープもそうだが、イチゴのチョコレートは小学生のころに食べたきりだったな」  魁副会長も可愛らしいクレープを見て、無邪気に笑う。 「生地がモチモチしておいしい! アラタ、クレープ焼くの上手だね」 「ジル先輩、その生地は焼いたんじゃなくて、電子レンジで作りました」  携帯で撮影してから食べたジル先輩は、青い目を丸くする。 「C’est vrai(セ ヴレ)(本当)? アラタはやっぱり凄いね」  フォークとナイフを使い、おしゃれに飾ったクレープ生地でイチゴを包み、イブ先輩が口に運ぶ。 「イチゴの甘酸っぱさと、練乳の甘さ、それにホワイトやストロベリーのチョコの甘さがよく合うね」  隣で剣先輩もうなずく。 「そうだな。イチゴが出回っている間に、また食べてみたいな」 「イチゴはまだ残ってます。ジャムをつくって、タルトか何かにしようかなと」 「楽しみにしてるぞ」  剣先輩が、優しい笑みを向けてくれた。最初は怖そうな人かなって思ったけど、全然そんなことはない。たまに料理のコツを教えてくれる。剣先輩のエプロン姿、ちょっと見てみたいな――そんな衝動にかられた。  それにしても、あの乙女チックなクレープを気に入ってもらえて、よかった~。胸を撫で下ろしていると、榊会長から“どうかしましたか?”と聞かれた。 「あ、その…、今日のクレープ、見た目が可愛らしいっていうか、なんとなく乙女チックな感じだったので、嫌がられたらどうしようかなと心配だったんです」 「確かに、カフェなどではまず注文しませんね。ですから君のお菓子はめったに食べられないものなので、大変嬉しいですよ」  眼鏡の奥で目を細めて微笑む榊会長に、魁副会長も同調する。 「そうだな、クレープは久しぶりだが、改めて“こんなにおいしい物だったんだな”って思ったぞ」  ジル先輩が、顎に手を当て考える。 「うーん…、僕は甘いもの大好きだけど、確かに一人じゃあまり注文しないよね。だからここで食べるアラタのスイーツは貴重だよ」 「男だけだと可愛いスイーツは照れもあるから食べないけど、ここなら生徒会だけの秘密をみんなで共有できるからね」  と、イブ先輩は人差し指を唇に当ててウィンクする。剣先輩もうなずいた。 「俺は一人でも平気だけどな」 「ええっ?! そうなんですか?」 “だね”とイブ先輩が隣から、剣先輩の肩を抱く。 「虎牙は甘い物が大好きでね。カフェで待ち合わせすると、先に来てチョコレートパフェ食べてたり」  クールでかっこいい剣先輩がパフェ…。エプロン姿だけでなく、パフェを食べてる姿も見てみたいな。思わず“プッ”と吹き出してしまった。 「なんだ、おかしいか?」 「いえ、嬉しいです。剣先輩って、何ていうかクールで硬派って感じなんで、甘い物食べなさそうなイメージだったんですが、甘い物好きなら俺も作った甲斐があります」 「そうか」  と、剣先輩は優しく微笑む。うわっ、なんて優しい表情をするんだろう。それに、少し照れたみたいかな。製菓部として、生徒会とお近づきにならなければ、剣先輩のそんな表情、見ることはできなかったかもしれない。剣先輩の意外な面を見れた、そのことも嬉しかった。  生徒会室を出るとき、剣先輩から“土曜日は暇か”と聞かれたので、“はい、空いてます”と答えた。 「昼ごろに部屋に行くから、待っていてくれ。じゃあな」  土曜日――何があるんだろう? 聞いてみたいけど当日までのお楽しみ、の方がよさそうだ。

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