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秋・恋人たちの文化祭 プロローグ
※本編のその後、秋の文化祭のお話です。
まずはプロローグです。その後、聖、大和、ジル、イブ、虎牙と各キャラ、プロローグより続きます。
それぞれ4話ずつの、短い甘々なひとときをお楽しみください。
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今日と明日、十一月三日と四日は、聖トマス・モア学園の文化祭。各クラスやクラブで模擬店を出したり、演劇やダンスのパフォーマンスをしたり、お祭り騒ぎなんだ。
もちろん文化部にとっては、日頃の成果を発表する大切なイベントだ。美術部や書道部は作品を展示し、音楽部はコンサート。情報処理部は、開発したゲームなどのソフトの体験プレイ。
そして俺の製菓部。一人で模擬店は大変なので、生徒会のみなさんが協力してくれて、カフェを開くことになった。場所は学内の食堂。文化祭の日は休日なので、学食は休みなんだ。あまり派手な飾り付けをすると後の業務に支障が出るといけないから、入り口に看板風の黒板を立てているだけなんだ。
コーヒーカップとクッキーのイラスト、それにカリグラフィっぽいロゴで“:Cafe(カフェ)・de ・:Mignon(ミニョン)”と、チョークでお洒落に書かれた、かなりイケてる看板だ。製作者は中山なんだけどね。さすが美術部! お礼に好きな物を二日間、何でもご馳走してあげると約束したから、後で来てくれる。
メニューはクッキーとマドレーヌとマカロン。それに、とっておきの数量限定スイーツもある。飲み物はコーヒー、紅茶、ミルク、ココア、オレンジジュース。俺が厨房でお菓子を作り、生徒会のみなさんは飲み物を入れてウェイターを担当してくれる。
生徒会のみなさんは、制服のスラックスとシャツに、黒いベストと黒い蝶ネクタイ、それに赤の長いサロンエプロンを巻いている。テーブルナプキンを腕に引っかけ、メニュー(厚紙に画用紙を貼ったものだけど)と銀色のトレイを持っている。まるで本物のウェイターみたいだし、元がいいからカッコいい!
みなさん、かっこよくていいけど…。
一通り焼き菓子を作り終えたので、休憩を取ることにした。開店まで、あと十分。厨房から出た俺を、ウェイター姿の生徒会のみなさんがにっこり笑顔で迎える。
「よく似合っていますね」
満足そうに眼鏡のブリッジを指先で押し上げる、榊聖 生徒会長。
「そ、そうですか?」
俺は白いコック帽に、白いコック服。赤いタイを襟につけている。
「立派なパティシエだな」
そう言ってうなずくのは、魁大和 副会長。
「C’est bien ! アラタ!」
フランス語で褒めてくれる、会計のジルベール・マルソー先輩。
「これはイチゴショートよりも可愛いスイーツだね、strawberry」
とウィンクをする、書記の英 夜 先輩。
「後で記念写真を撮ってやろうか?」
庶務の剣虎牙 先輩まで~。
「そ、そんなぁ~…いいですよ、恥ずかしいから」
「さあ、みなさん。そろそろ開店時間です。お客様をお迎えいたしますよ」
生徒会長の言葉に、全員が背筋を伸ばす。
「ウィ、ムッシュ!」
初めての文化祭。大好きなあの人といっしょにカフェ。さて、どんな二日間になるやら。
おかげさまで開店と同時に大盛況で、続々とお客さんが来てくれる。
理事長と副理事長が、どこかで見たことあるような、杖をついた白髪の外国人といっしょにご来店くださった。どこで見たっけ。眼鏡は無いけど、フライドチキンの店の前かな?
「やあ、遠野くん。さすがに大盛況だね」
厨房を覗き、理事長がにこにこと上機嫌な様子で声をかけてくれた。
「はい、ありがとうございます。ごゆっくりしてください」
コック帽を取り、お辞儀をした。
「遠野くん、こちらは聖トマス・モア学園の創設者で初代理事長の、ウィリアム・ベーコン氏だ」
ひえーっ! どこかで見たと思ったら、正面玄関前の銅像だった!
「Nice to meet you! It's a great pleasure to meet you.」
“Nice to meet you”の後は、ほとんど聞き取れない。
「ナ…Nice to meet you、thank you」
と返して握手をするだけで、精一杯だった…。英会話、頑張ろう…。
文化祭は、学園側からの来賓のほかは、生徒の家族や親類、OBしか来られない。意外に女性客も多くて、生徒のお姉さんや妹なんだろうな。ウェイターさんたちが、さっきから女性たちに声をかけられている。
「あの…いっしょに写真、撮ってもらえますか?」
「ゴメンね、スイーツの写真はいいけど、生徒の写真はプライバシー保護のために禁止されているんだ」
そう、やんわりと注意したのはイブ先輩。さすが有名人。ずっと女の子に囲まれている…。
ほかのみなさんも、名前を教えてくれだの、文化祭が終わったらどこか行かない? などと逆ナンされまくりだ。
オーダーを取って飲み物を作り、運んで会計をする業務が大変なのに、その上お断りの業務まで増えるなんて…。ああー、また! 女性があの人にまとわりついてる!
「その人、俺の恋人です。手を出さないでください」
と言えたら、どんなに楽か…。
そして唯一の救いは、帰りに“おいしかったです”“明日も来ます”と言ってもらえること。きっと飲食店をやってる人は、この言葉に癒やされるんだろうな。
限定スイーツは数が決まってるけど、クッキーやマドレーヌやマカロンは切らせない。数が減る前に焼かないといけない。オーブンの前にずっといるから、秋だというのに汗だくだ。
午後一時半、休憩を取ることにした。ドアを閉め、“午後二時まで休憩”の貼り紙を出した。
昼食は寮の食堂で、生徒の人数分の弁当を用意されている。食堂から取って来てもらった弁当を食べたら、二時から業務再開だ!
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