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聖&たまねぎケーキ-2

 一日目が無事、終了。売り上げが思った以上にあった。この学園では、準備や材料にかかった予算以上に売り上げがあった場合、寄付をする決まりになっている。商売をしているわけではないから、利益はいらない。俺としても、お菓子を作らせてもらって、それを食べた人が喜んでくれたら満足なんだから。  生徒会のみなさんはホールを、俺は厨房の掃除をして一日目の業務を終わった。  明日の午前中の分はいいけど、午後の材料が心配だ。小麦粉や砂糖を部室に取りに行った方がよさそうだ。  ワゴンを押して食堂を出ると、まだ黒のベストとサロンエプロンというウェイター姿の聖さんに声をかけられた。 「新太、部室に行くのですか? 私も手伝います」 「あ、はい、お願いします」  一人でも大丈夫なんだけど、聖さんのそばに少しでも長くいたいからお願いした。 「聖さんやみなさんが助けてくださったから、大入りでした。ありがとうございます」 「君の実力ですよ。私たちは手伝いに過ぎませんからね」  聖さんが言うには、午後の部に来てくれたお客さんの何人かが”おいしいって聞いたから”、と言ってくれたらしい。女性客はみんな、ウェイター目当てだろうけど…。 「しかし新太のパティシエ姿が、これほど素晴らしいとは。よく似合ってますよ」  ワゴンを押しながら、俺は自分の格好を見下ろす。 「そ、そうですか? こういうのを着たのは初めてで」  話をしているうちに部室に着いた。戸棚から小麦粉の袋を出す。聖さんには砂糖の袋をワゴンに積んでもらった。 「…ベーキングパウダーも持って行くかな。あとは、チョコチップも」  材料を持ち込みすぎたら、二日目終了後に部室に戻す作業が大変だと思って、ギリギリいけそうな量だけ食堂に持って行った。まさかこんなに売れるとは思わずに。 「ありがとうございます、聖さん。明日はこれだけあれば大丈夫です。来年は、見積もりをちゃんとしないといけませんね」  へへっ、と笑うけど、また“来て” しまった。来年というキーワードで、聖さんがいないという事実に悲しさがこみ上げてきた…。  いけない、聖さんはこれから受験を控えているんだ。その後も六年間頑張って、外科医を目指すんだ。俺がメソメソしていたら、聖さんのお荷物になってしまう。  慌ててゴシゴシッとコック服の袖で鼻の下を擦る。 「新太」  聖さんが吹き出した。 「は、はいっ」 「鏡を見てごらんなさい」  洗面台の所に鏡がある。聖さんに言われて鏡を見たら、鼻の下にヒゲみたいな白い筋がついていた。服の袖に、小麦粉がついていたようだ。 「うわっ!」  慌てて蛇口のレバーを押して、顔を洗った。水とお湯の両方が出るけど、お湯は温まるまでに時間がかかる。冷たいのを我慢して水で洗った。恥ずかしいから、早く落としてしまいたかった。洗い終わって、ポケットのハンカチで顔を拭く。 「あ~あ…、どうして俺ってこうなんだろ…。聖さんは完璧でカッコいいのに」  鏡で小麦粉の跡が残っていないのを確認していたら、後ろから聖さんに抱きしめられた。 「私は完璧ではありませんよ。君を見ていると、余裕がなくなるのです。理性を抑えるので一杯で…。所構わずこうして抱きしめたくなります」  聖さんの体温が伝わってくる。ああ、駄目だ…。余裕がなくなるのは、俺の方だ。 「まったく新太は…そんな可愛いところばかり見せるんですから。それに、他人に対して隙を見せすぎです」 「隙…?」 “ええ”と、抱きしめる腕に力をこめられた。熱い吐息がうなじにかかる。 「明日は厨房から出てきてはいけませんよ。また君が狙われたりしたら、今度こそ冷静でいられなくなります」  今日来たあの姉妹か。あれはお客さんの中でも特殊なパターンだと思うけど。 「そ、それより聖さんの方が女性からいろいろ声をかけられてたじゃないですか。聖さんのことは信用してるから心配ないけど、やっぱり見てて気持ちいいものじゃないですよ」  俺の恋人はモテモテだ。そんな人から、俺は愛されてるんだ。そうわかっていても、あの女性たちの媚びを売る目つきは、気分を害してしまう。夏に海で逆ナンされたこともあるし、明日もそういうお客さんが来そうで心配だ。 「君の懸念は、よくわかります。同じ立場になって、やはり君と同じことを考えました」  聖さんも俺を信用してくれている。俺が好きなのは聖さんだから、どんな人に言い寄られたって、なびかないって。でも女性にベタベタされているところを見るのは、聖さんも不愉快なんだ。 「新太は私だけのものだ、という証を残しておきましょうか」  そう言って、聖さんは俺の首筋に吸いついた。 「あ…」  これって…もしかして…キスマークつけられてる?!

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