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大和&和風パフェ-1
(※文化祭プロローグの続きになります)
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「限定スイーツの和風パフェ、もうすぐ今日の分は無くなりそうだな」
学食のテーブル、俺の正面に座っていっしょに弁当を食べている大和さんが、そう言った。
和風パフェは、抹茶とバニラのアイスに、小倉あんと缶詰めのフルーツを飾り、飴細工のカゴ(シュクレ・フィレ)で覆ったものだ。シュクレ・フィレが、一人で作るには時間的に限界があるので、一日分の個数を制限している。
「はい、こんなにお客さんが入ると思わなかったから…ちょっとびっくりしてます」
和風パフェはともかく、クッキーやマドレーヌ、マカロンは切らせない。一日でこんなにお菓子を焼いたことがなかったから、さすがに疲れた。パティシエって大変なんだな。毎日、大量にお菓子を作るんだから。
「俺も驚いている。スイーツを扱うカフェは、今までの文化祭であまり無かったからな、人気は出ると思ったが」
お弁当を食べ終え、お茶を飲んで一息つき、大和さんがポツリと言った。
「…お前の和風パフェ、食べてみたかったな」
ほかのお菓子は、生徒会のみなさんにも食べてもらったことがある物ばかりだ。アイスクリームのデザートも何回か作ったけど、和風パフェはこのカフェで初めてだ。
俺は大和さんの方に身を乗り出し、大和さんにささやいた。
「よかったら、今日の閉店後に一つ作ってごちそうしますよ」
「いいのか? 明日のが一人分、少なくなるだろう?」
「いいですよ、アイスやフルーツの量は、少し余裕を持ってます。シュクレ・フィレなら、一個を余分に作ったところで、材料も手間もそれほど変わりませんよ」
「すまないな」
大和さんの大きな手が、俺の頭の上に乗る。
「ありがとう、新太」
俺はこうして、大和さんに頭を撫でられるのが大好きだから、大和さんの喜ぶことなら何でもしてあげたい。
午後の部も無事終了。てんてこ舞いな一日だったけど、心地よい充実感。みなさんが“おいしい”と喜んでくれた。
後片付けや掃除が済み、榊会長とジル先輩、イブ先輩と剣先輩は食堂を出た。大和さんと俺は、厨房に残っている。
「悪いな、俺だけごちそうになって」
「そんな…、大和さんだから特別ですよ」
大和さんは恋人だから特別、とは照れくさくて言えなかった。
ガラスの器にクラッシュした抹茶ゼリーを入れて、黒蜜をかける。抹茶アイスとバニラアイスを乗せ、缶詰めのパインやミカンを乗せ、甘く煮た大納言豆をトッピング。その上に、シュクレ・フィレをふわっと乗せたら完成!
スプーンでサクッと飴を割り、大和さんがアイスと飴と豆を食べる。
「うん、うまい!」
普通は細長いパフェスプーンを使うけど、器が浅いから(どちらかと言うと、サンデーかな)、カレーを食べるようなスプーンを使う。大きなスプーンで、いろんな味の組み合わせを楽しんでほしいから。女性には抵抗があるかもしれないけど、お客様の半数以上は男性。豪快に食べてほしいデザートだ。
黒蜜がかかった抹茶ゼリーにとけかかった抹茶アイスを絡めて食べる。体が大きい大和さんだから、スプーンがやや小さく見えてしまう。
「本当にうまいな、ゼリーは新太が作ったんだろう?」
「はい、抹茶アイスもバニラアイスに抹茶とシロップを混ぜて作りました」
市販のアイスでもいいけど、ゼリーに抹茶を使っているし、黒蜜やフルーツとの相性を考えると、抹茶の配合量は自分で調節したい。ゼリーも黒蜜の甘さが引き立つよう、甘さ控えめにしている。
「俺の好みで配合したんですが、大和さんの好みでよかった」
パフェを食べ終え、後片付けや火の始末を確認して、電気を消して食堂を出た。
「大和さん、今日はどうもありがとうございました。明日もよろしくお願いします」
頭を下げると、大きな手が頭の上に乗った。
「ははっ、他人行儀だな。俺も楽しかったから、いくらでも協力してやるぞ。パフェ、ご馳走さま」
大和さんの手は、俺を安心させてくれて、励ましてくれる。明日も頑張るぞ!
翌日のカフェも大盛況で、一日があっという間だった。
午後三時、あと二時間で閉店時間を迎えるというとき。食堂に血相を変えて飛びこんで来た生徒がいた。彼は生徒会長を探していたようだが、榊会長は接客中だったので、代わりに大和さんに何やら相談している。
「わかった、俺が行こう」
サロンエプロンを外し、大和さんが俺に声をかける。
「体育館の舞台で、怪我人が出たそうだ。俺が見てくる。聖たちにも伝えておいてくれ」
そう言うと、呼びに来た生徒について走って行ってしまった。
舞台で怪我――具合はどうなんだろうか…。文化祭の総括は生徒会だ。だから、トラブルが起きたら生徒会が収束しないといけない。
どうか怪我した人が無事でありますように、大和さんがすぐに戻ってくれますように。俺は、そう祈るだけしかできなかった。
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