13 / 29

第13話

「セシル、オレ絶対失敗しないよ」 「シアン?」 「オレだって王子の立場を悪くしたくない。オレができることならなんでもする。だって王様になってほしいもん」 「そうですね……」  食事の場には王と王妃は来ないとセシルから説明を受けた。二人は仲違いしてから自室で食事を摂ることが多いらしい。  王様に会うのはさすがに緊張するのでシアンはホッとしたが、それなら王子も自室で食べられないのかと疑問に思った。 「王の弟君――王子の叔父上にあたるハリス公が王族の親睦を深めるためにと、食事は出来るだけ王族同士集まって摂ろうという決まりになったのです。それまでは顔も知らない親族がいたくらいですから。おかげで顔を知れた方々も多いはずです」 「へぇ……」  けれどそれが裏目に出て、王子は食事のたびに毒を盛られているのだから決して良いことだけではない。  食事の際の席順は決められていて、身分の高さの順に座る。王と王妃はほとんど来席しないので、実質一番身分が高いのはノア王子ということになる。  二人の兄は療養中で王宮にはおらず、気候の穏やかな地で暮らしている。 「王族以外でその席に座ることができるのは稀です。今回も異例中の異例。次期国王のお相手を見定める席なのだと覚悟して臨みなさい」  釘を刺されてシアンはゴクリと喉を鳴らして生唾を飲んだ。 「席順が毎回同じなら、毒も簡単に入れられるってことか……」  王子が食事をする部屋に来る前に誰かが入れることは十分可能だ。それ以前に料理を作る者が王子の食事にだけ毒を盛ることもできる。給仕をする者、従者、侍女。一回の食事で王子の食べ物の中に毒を入れる機会がある者は数え切れない。  それがもし、一人の黒幕によって何人もが唆され、複数の毒を食事に混ぜられていたとしたら。 「第二王子がいつから毒を盛られていたかは定かではありませんが、少量を一食ごとに混入されていたのでしょう。ノア王子が体調不良を訴えはじめたのは第二王子がお倒れになってすぐ。首謀者は王位継承者を一人ずつ手に掛けていっています。王子が倒れたら次は……」 「王子が倒れることはないよ。そのためにオレがいるんだから」  正直、自分に毒を中和する力が本当にあるのかよくわからない。口付けで王子から毒を吸い取っている感じもしないし、ただ体液を与えているだけだ。  それでも王子はそのたびに顔色が良くなるし、朝起きた時の王子は機嫌も良さそうに見える。  自覚はないけれど王子の役には立っている。それがシアンの自信になっている。  何もできない奴隷の頃とは違う。求められている。体液や身体だけかもしれないけれど、確実に王子の命を救っている。 「絶対に毒で殺させたりしないから」  そもそもやり方が陰険すぎるのだ。毒でじわじわと、だなんて苦しんでいるのを見て面白がっているとしか思えない。  そんな相手に王子を殺させたりしない。 「それは頼もしいですね」  初めてセシルの笑った顔を見た。嬉しくなってシアンも笑った。 「では、食事の際、困ったことがあれば王子以外ならハリス公を頼りなさい」 「王子の叔父さんを?」 「ハリス公は大変温厚な方で、その上とても賢い方です。現国王を支える大臣の一人としてその知識を発揮されていますし、新王になった世でもきっと支えになってくれるお方です」 「わかった」  とにかく、今日の昼食の時に顔を見ておこう。今後どうなるかはわからないが、セシルが信頼を置く人物だ。きっと何かと助けてくれるだろう。  侍女がようやく衣装を選び終え、シアンはほとんど強制的に着替えをさせられた。  いつもはあまり派手なものは嫌だと言うと、渋々承知してくれる侍女たちも今日は絶対に譲らないと目を血走らせている。  彼女たちはシアンのことをとても可愛がってくれている。王子のお手付きになったというだけでかなりの特別待遇を受けているのはシアンも気付いていた。  侍女にもその機会はあるはずなのにシアンの世話をしてくれる侍女たちは妬みもしないで毎日、甲斐甲斐しく服を着せて髪を結う。 「すっかりここの生活にも慣れてきましたね」  セシルが着替えさせられているシアンを見ながらしみじみと呟いた。 「全然慣れないよ。服だって汚したらどうしようって毎日ハラハラしてるし、身体は自分で洗いたい」  そう言うとあからさまに侍女たちが落ち込んだ表情を見せたのでシアンはなんだか申し訳ない気持ちになった。  奴隷として生きていた時は温かいお湯に浸かることなんてなかった。凍えそうな寒い日でも水を浴びていた。あまりにも寒いと水を浴びることもなく、何日も身体を洗わなかった。  それが今では毎日、温かいお湯が溢れるほど入った広い浴槽で両手両足を伸ばしてゆっくりできる。こんな贅沢を覚えたら、いざお役御免になった時、どうなるのかと心配になる。  王子は一生、贅沢な暮らしができると言ってくれたがそれは女性の場合だけではないのか。子も残せない同性のシアンが同じお手付きの女性たちと仲良く暮らせるとは思えない。  毒を盛った首謀者が捕まったあとは、奴隷と同じように下働きや雑用をしてなんとか暮らせたらと考えている。  本音は、王子のそばにいたいけれど。

ともだちにシェアしよう!