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第20話

「王子とはどうやって知り合ったのですか?」  王宮の長い回廊を抜けて裏側にある庭園まで歩いて行く。後方にはやや距離を置いてハリス公の従者が控えている。  窓からは王宮の表側しか見えないので裏側を見るのは初めてだ。他のどの扉よりもこぢんまりとした小さな扉をくぐり抜けるとすぐ目の前にはたくさんの花が咲き、緑溢れる庭園が現れた。 「どうやって……って言われても……」  何も聞かされずに連れてこられたとしか言いようがない。 「あちらに私の趣味の薬草園があります」  質問に答えられずにいるとすぐに話題が変わった。  人の顔色や態度を見てすぐさま対応の仕方を変えてくれるのは楽だ。こういうところがハリス公への信頼に繋がるのだろう。  薬草園は庭園の端にひっそりと作られていた。  屋根付きであちこちから太陽の光が入るようにできている。 「なぜ薬草を?」  薬草を育てるには手間暇がかかる。庭園の花たちもよく手入れがされていた。  王宮なのだから庭園管理専門の人間がいてもおかしくはない。その人はよほど草花が好きなのだろう。どれも誇らしげに咲いている。 「花を育てたりするのが子供の頃から好きでしてね。ここの庭園で土いじりばかりしていたんです。そのうち第一王子が産まれ、身体が弱いとわかり何か役に立つかと薬草にも手を出したらすっかりハマってしまったというわけです」  苦笑するその表情は柔らかなのに、目の奥はやはり笑っていなかった。  良い天気なのにシアンは薄ら寒くなりフードをしっかりと被り直した。  薬草にも花にも詳しくはないけれど、ここの薬草がよく手入れされていて大切に育てられているのが見て取れた。  薬草の中には使い方によって毒になるものもある。ここで育てた薬草で毒を作っている可能性を疑った。 「その赤い髪は、生まれつきですか?」 「え……」 「古い文献に赤い髪の一族がいたと書かれていたのを思い出してね。君はそれに関係あるのかな?」  答えるかどうか悩んだ。その文献はおそらくセシルや王子が読んだ文献と同じものだ。だったらその赤い髪の一族の体質も知っている。  ハリス公が毒を盛っている黒幕ならシアンは邪魔な存在でしかない。 「……ノア王子も、その文献を読んだと言っていました。それでオレを探し出したと」  一か八かの賭けだ。これでハリス公がどう出てくるか。 「ノア王子は幼い頃からロマンティストだったから、初代国王に憧れたのだろうね」 「どういう意味ですか?」  おかしそうに、どこか懐かしそうにハリス公は微笑む。 「赤い髪の人間を娶れば自分も初代国王みたいになれると思っているのかもしれない。立派に育ったと思ったけれど、まだまだ子供だなぁ」  薬草の手入れをしながら、フフと声を出したハリス公。  遠回しに、王子はシアンに惚れているのではなく憧れを形にしただけだと言っているのだ。  おまえなんかには王族の長い歴史に勝てはしないのだと。  そんなことは最初からわかっている。けれど他の人に言われると傷付く。 「ハリス公」 「はい、なんでしょう?」 「王子の食事に毎回毒が盛られているのは知っていますか?」  薬草を手入れする手を止めてハリス公はゆっくりとこちらを向いた。その顔はもう笑っていなかった。 「王子の食事に? それは本当ですか? 誰がそんなことを言ったのです?」 「王子本人です。だから王子はオレを探し出した。――毒の治療のために」  心臓がバクバクとうるさい。  少し離れたところにハリス公の従者が控えてはいるけれど、味方ではない。今ここでシアンになにかあっても誰も助けてくれない。

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