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第21話

「赤い髪の一族に毒の無効化の力があるとは書いてあったが……まさかそれを信じて探し出したと? 本当に君にその力が?」  冷たい声だった。  気味の悪い、闇を背負ったような。 「では……君にこれを飲ませても、平気だと?」  ポケットから出した小さな小瓶にはいかにも毒の色をした液体が入っていた。 「これは?」 「たった一口で、一瞬で死ねる毒です」 「なんでそんな物持ってるんです? 物騒ですね」  そんな毒を盛られたら隣にいても治療が間に合うかどうか。  その毒を王子に使われたくない。 「薬草を煎じるうちに毒も作れるようになったんです。もしこれを飲んでも君が平気なら、その力が本物だと信じましょう」 「別に信じなくてもいいですよ。王子が信じてくれてますんで」  毒の入った食事を食べても平気だったから自分の身体の中に毒を取り込んでも中和されるのはわかっている。しかし一口で死ぬ毒を飲むのはリスクが高すぎる。 「では、その王子の食事に入れたら?」  思わずシアンはハリス公を睨んだ。この人ならやりかねない。そう感じてハリス公の手から強引に小瓶を奪った。 「飲んでもいいですよ。でも代わりに答えてくれませんか?」 「飲んで、平気だったらいいですよ」  小瓶の蓋を取って中身を覗いた。お世辞にも美味しそうとは思えない。 「王族を唆して毒を盛らせたのは貴方ですか? 第二王子もそうやって毒を盛っていたんですか? その時は上手くいったみたいですけど、ノア王子は絶対にそうさせませんから」  キッと睨み付けると、冷酷な目がシアンを鋭く射貫いた。  ビクリとしたが負けるわけにはいかなかった。 「どうぞ、飲んでください」  手が震えて小瓶の中の液体が揺れる。  ふぅ、と息を吐いてシアンはその毒を飲み干した。 「まずっ」  一瞬で死ぬならもう効果が出ているはず。けれどシアンの体質はそれを無効にする。もしかしたら時間差で効いてくるかもしれない。  怖い。今まで生きてきてこんなに怖いのは初めてだ。  この体質で王子を助けてこられたことを誇りに思う。これで死んでしまっても後悔はしない。 「さぁ、答えてください。貴方が毒を盛らせていたんですか?」  ハリス公は大きく目を見開いた。  毒が効いていないのを見て驚いている。 「……本当に、効かないのか……」 「だから……そう言ってるでしょ……」  効かないはず。だけど身体が、胃の中が酷く熱い。今にも吐いてしまいそうなくらい気持ち悪い。毒の中和が間に合っていないのかもしれない。 「……毒を盛らせていたのは……」  目が回る。立っていられない。呼吸が苦しい。 (オレ、このまま死ぬのかな……)  しかし、それでも構わない。もう王子に盛られていた毒は減って、食事の場も崩壊している。王子は自室で毒の盛られていない美味しい食事を口にできる。 「そう、私が毒を盛らせていた。第二王子もそうだ。とても残念だ。継承権を放棄すれば命まではとるつもりはなかったのに」  やはりハリス公が――。  これを王子に伝えなければ。  だけど――目の前が暗くなってきた。何も見えない。今、自分が立っているのか座っているのか。それとも倒れているのかもわからない。 (王子に……つたえなきゃ……)  霞む視界の中でハリスを睨み付けようとした。しかしシアンの意識はそこで途絶えてしまった。

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