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第1章 宇宙(そら)の狼 *4*
いきなりの口吻けに、カシスの身体はガクガクと震える。
噛み付くようなキスだった。強引で容赦がない。
無理矢理に上向かされ唇が重ねられる。顎を掴まれているせいで閉じることもできない口腔に、舌がスルリと潜りこんできた。
「ん……ん…う……っ」
こんなキスは初めてで、カシスは驚愕に目を見開く。
軽いキスだって実を言えば他人と交わしたことのないカシスだ。せいぜい実の母親と交わした挨拶程度の経験しか、カシスにはない。
突然の深いキスに驚いて、カシスは咽喉の奥で呻きをあげた。
逃れようと藻掻くが大した抵抗にはならない。細い片腕のみでウルフはカシスの動きを封じていた。
両手をひと括りに頭上で押しつけられ、カシスは身動ぐこともままならず理不尽な行為に従わされる。
見かけによらない力強さでカシスを組み敷いてしまうウルフは、やはり海賊の名に恥じない屈強さをその身に秘めているのだ。
潜りこんできた舌がカシスの口腔を嬲り、縮こまった舌を絡め取る。
「や……ッ、ん…………」
必死に身を捩っても、押さえつけてくるウルフの身体はビクともしない。
舌先で歯列をなぞられ、舌も丹念に弄られる。強く吸われると背にゾクゾクと痺れが疾った。
手馴れたキスを繰り返しウルフは笑う。
「キスだけでもう感じてんのか? 男はとっくに経験済みってわけかな?」
「な……に?」
訳のわからない言葉に、カシスは虚ろに問いを返す。ウルフの手が布地の上からカシスの股間を撫であげた。
「―――ヒゥ……ッ」
「こっちの手解きは受けてんだろ? どんなヤツが相手だ?」
「相……手……?」
「応えな。相手はどんな美人だ? 帝国の王子なら相手に不自由はねーよな。それとも教育係のエロジジイが相手か?」
「そ…んな……の……」
まともにキスすら経験したことのないカシスだ。応えようなどあるわけがない。
口篭るカシスの着衣を、ウルフの手が乱暴にたくしあげた。
「どーなんだカシス? 応えろよ」
ウルフは剥きだしの肌に唇を寄せる。赤く色づく突起に歯を当て、舌で擽った。
「や……あ……ッ、知…ない……知らない…ッ」
「応えろ」
なんども首を横に振るカシスに、ウルフは静かな声で告げる。有無を言わせない声音に、うろたえたカシスは小さく応えた。
「こ……なの…………たこと……ない……」
「初めてか?」
真っ赤に染めた顔を背け、それでも僅かに頷いてみせるカシスを、ウルフは目を細め見下ろす。
「まっさらってワケか」
含みを持ったウルフの声に、カシスはギクリと背を強張らせた。
相手を睨みつけてやりたいのに、まともに目を合わせることができない。危ういものを纏った空気がカシスを動けなくさせている。
「奴隷としては申し分ないってワケだ」
冷ややかに言ってのけ、再びウルフはカシスの胸元に顔を寄せた。一方の突起を唇で挟み、もう一方は指で押し潰したりする。
痛みとむず痒さにじっとしていられずカシスの腰が揺れた。
舌と指先で胸の突起を弄ばれて、身体の奥から耐え難い疼きがこみあげてくる。
そんなカシスの反応を、ウルフは目敏く見抜いていた。
「初めてにしちゃ敏感だな」
「ヤダ……ッ、……やめ……ッ」
「嘘だね」
残酷な声が告げる。
「やめて欲しいわけないだろ。ここだってもう、こんなに濡れてる」
ウルフの手が下肢へと下りてきた。ズボンの前がくつろげられ、半ば勃ちあがったカシスの半身に指が絡む。
「こんなにしといて嫌なわけないよな?」
「あ……あう…ッ…………」
否定の言葉を返すこともできずに、カシスは必死に息を呑んだ。
触れる指先が次々に快感を紡ぎ出す。
「や……!…………ああぁ…………ッ」
強弱をつけて擦られると堪らなかった。
ウルフの手の中にカシスは呆気なく欲望を迸らせてしまう。
残滓をペロリと舐め取り、ウルフはニヤリと唇の端を上げた。
「早いな」
「いや……だ…………も……」
「根を上げるのは早いぜ王子さま」
顔を背けたカシスを強引に上向かせ、ウルフはカシス自身が放ったものを口移しに飲み込ませる。
カシスの咽喉がコクリと上下したのを目で確かめ、わざと優しい仕種で頬を伝った涙を舌で掬い取った。
「まだ序の口だ。前戯にしたって軽すぎだぜ」
ウルフは身を起こし、着ていたジャケットを脱ぎ捨てた。
腕の戒めを解かれ咄嗟にカシスは逃げようと身動ぐ。しかし思惑はあっさりと裏切られ、ベッドの上で起き上がることすらカシスにはかなわなかった。
「ど……して…?」
驚愕も露わなカシスの顔を、ウルフは意地悪く覗きこむ。
「言い忘れてたが、このバンドは主人の意志で動く。奴隷を押さえつけとくのも簡単ってこった。もうひとつ、こいつからは個別のシグナルが送られる仕組みになってる。どこへ行こうと隠れようと、居場所なんざすぐに分かる」
特殊合金製のリストバンドを指して言う。
「俺は一度捕らえた獲物は逃さない主義だぜ。諦めな」
「はな……せ! ……離せ!」
「無駄だ、カシス」
大きく開かせたカシスの脚の間に、ウルフは自らの身体を割り込ませた。
「お前に男ってのがどんなもんか、味合わせてやるよ」
体重をかけ組み敷いたカシスの肌にキスを降らせる。
「じっくりと覚えこませてやる。奴隷としての立場ってヤツをな」
優しい声音とは裏腹に、もたらされたのはカシスにとって絶望的な言葉だった。
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