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第2章 白き海賊船ルナティス *3*
巨漢のライアスを相手に抵抗もできないまま、カシスは部屋に連れ戻された。
軽い荷物のように室内へポンと放り込まれ、バランスを崩したカシスが床に膝をついている間に、ライアスの姿は失くなってしまう。
入り口は閉ざされ、立ち上がったカシスが再びパネルへ向かい暗証コードを打ち込んでも、入力エラーが告げられるばかりでロックは解除されない。
カシスは八つ当たり気味に右の拳をパネルへ打ち付けた。部屋の中にエラー音が鳴り響き、神経を逆撫でする。
怒りを内包した身体が悔しさに震えた。
これでまた振り出しだ。
脱出ルートの確保どころか、データのひとつとして手に入れることすらできていない。
まるで進展のみられない状況にカシスは苛立つ。
「どうして……」
なにもかもが思い通りにいかない。
海賊の手の中でいいように転がされているだけではないか。
もとより帝国の王子である自分が海賊の手に堕ちるなど、あってはならないことだったのに。
せめて、なにか―――。
そうだ、せめて傷のひとつもあのウルフに負わせることができたなら―――!
カシスの双眸が、彼にしては不似合いな、酷く険悪な色をみせ輝く。
部屋の一番奥に備え付けられたデスクに、カシスは歩み寄った。いつも雑然として散らかっているデスクの上を、無遠慮に引っ掻き回す。
どこかの惑星の航路図や小型機械の図面やマニュアル、そのどれをとっても大した役に立ちそうもない代物を手荒く掻き分け、すっかり埋もれ果てていたジャックナイフを引きずりだした。
手にしたナイフの重みを確かめ、カシスは強く握り締める。
果物ナイフをほんの少しだけ大ぶりにしたようなナイフだ。ビームサーベルを相手には、とてもではないが太刀打ちできない。
ウルフにしてもナイフが持つ切っ先の鋭さにはさして興味がないようで、なにかのネジを外す際にドライバー代わりにしていたのをカシスは眸にしていた。
武器として身につけるには、あまりに頼りない。
なにも持たないよりはと、カシスは覚悟を決める。
せめてもの悪足掻きだ。
そんなカシスの思惑を見透かすように、部屋のシャッターが唐突に開いた。
*―――*―――*―――*―――*
実戦には不慣れなカシスだが、剣術は幼少の頃から叩き込まれている。
戸口が開くと察したカシスの動きは素早かった。
反射的に壁際へ身を潜め、相手から死角となった位置で息を潜める。
シャッターが開いた。
相手をウルフと確認するよりも早く、カシスは動き出している。
手にしたナイフを振り上げ、切りかかった。
しかし―――。
「ク……ウ……ッ」
「身を潜めたまでは良かったんだがなぁ」
からかうように言われ、腕を掴みあげられる。
カシスの動きなどお見通しだと言わんばかりに、部屋に入るなりナイフの切っ先からスルリと身をかわしたウルフは、カシスの腕を軽々と捻りあげていた。
「気配を殺すなら、その殺気をどうにかしな。ギンギンに殺気を漲らせてたんじゃ、表示灯点けて隠れてるようなもんだ」
「は……、離せ……ッ」
相手を睨みつけるまでもなく、カシスの腕はあっさりとウルフの呪縛を逃れる。
「…………?」
拍子抜けして眸を丸くしたカシスだったが、すぐに別の驚愕に取って代わった。
ウルフの腕に抱え上げられ、ベッドに放り込まれたのだ。
「……ッ、…………なにす……!?」
体勢を立て直そうとするが、ベッドの上に起き上がることは叶わなかった。背後から伸し掛かってきたウルフの重みに、カシスは容易く組み敷かれてしまう。
ベッドに膝を立て、ナイフを持った右腕を後ろ手に捻られて、頬をシーツに押し付ける格好となったカシスは痛みに呻きをあげる。
力を失くした手からナイフが音をたてて床に落ちる。
耳許にかかる息を感じて、カシスは首を竦めた。
ウルフは意地の悪い笑みを浮かべているに違いない。見なくても分かる。声に悪戯な響きが混じるのだ。
「この俺に楯突いたんだ、それなりの報復は覚悟の上だよな?」
「…………クッ」
覚悟など知るものかと言ってやりたい。それなのに不穏に動く手が布地の上からカシスの下肢を嬲り、熱を煽られ息が乱れる。
なにか言ってやろうにも、口を開けば妙に上ずった声をあげてしまいそうで、容易に言葉を出すことができなかった。
ベッドにうつ伏せにされ腰だけを高く上げさされた屈辱的な格好にしても、ウルフはワザとやっているに違いないのだ。
カシスの羞恥を煽り尽くそうとしている。
悪態をつくことすらできず、じわじわと下肢から込みあげるもどかしい熱に唇を噛むカシスを、ウルフは時間をかけいたぶった。
「は……ッ、…………やぁ―――!」
背で右腕を掴まれた不自由な格好で、カシスは背後から貫かれた。
慣らされた秘腔に猛る肉塊を受け入れ、カシスは自由になる左手でシーツを掻き毟る。
「あ……あうッ、……ああぁぁぁ……ッ」
幾度も深い部分を突かれると堪らなかった。ゾクゾクと背筋が痺れ、甘い悲鳴が口をついて洩れ出る。
リズムをつけ腰が打ちつけられると同時に、形を変えたカシスの昂ぶりがウルフの手の中に包み込まれた。
「い……や…………、ヤダッ…………あう……ん…………」
強弱をつけ擦られて、瞬く間に昇り詰めてしまう。
前と後ろを同時に攻められてはひとたまりもなく、カシスの身体は急速に高みへと押し上げられていた。
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