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第3章 闇よりも黒き淵 *8*
乱れた呼吸の中に掠れた悲鳴が混じる。
どんなに押し殺そうとしても、声は咽喉をついて洩れ出た。
「あ……あう……ッ」
カシスは必死に頭を振る。
そうすれば快感が散るのだというように。
けれどウルフの手はますます敏感な部分を捕らえ、カシスを絶頂の高みへ追い上げようとするのだ。
後腔を穿つ指の数が増やされ、もう一方の手が前にまわされる。
「ヒゥッ、……あ……あ」
前と後ろを同時に嬲られ、カシスは喘いだ。
崩れ落ちそうになる膝に力をこめるたび、中にある指を喰い絞めてしまう。
「やだ……ッ……ヤアァァ……ッ」
「声を出すなって」
笑みを含んだウルフの声は痛いほど冷静だ。
「他の連中に聞かせたいなら、それでも構わねーけど?」
「あう……ッ、クッ……ン……」
カシスは壁に爪を立てた。
自分ばかりが乱されているのだと、自覚させられるのは辛い。
それでも洩れてしまう声は止めようがなく、カシスは自分の指を噛んだ。血が滲むのも構わず、きつく歯を立てる。
痛みは確かにあった。けれど快感は痛みなどあっさりと凌駕してしまう。
昂ぶった神経が、ウルフの手の動きを無意識に追っていく。
敏感な裡襞をかき回され、愉悦の波が幾つも背を駆け上った。張り詰めた半身にはウルフの指が絡み、柔らかな動きで擽られる。
「ん……んん……っ」
前にも後ろにも逃れることのできない身体に、次々と快楽の波は送り込まれた。
堪らずカシスは背を仰け反らせる。
もうなにを耐えているのかも分からなくなりそうだった。
後腔から指が引き抜かれ、カシスは噛んでいた指を離し思わずといった息を洩らす。
しかし安堵している間はなかった。
すぐさま訪れた衝撃に息を呑む。
「ク……ッ、……ん……ッ」
後ろに押し当てられた猛りが、容赦なく突き入ってきた。
立っていることもやっとなのに背後から深々と貫かれ、膝が震え崩れ落ちそうになる。
「ヒッ……ん…………ああぁぁ―――!」
身体が壁に押し付けられ、激しく突き上げられた。
洩れる悲鳴を殺すこともできず、カシスは背を撓らせる。
ウルフの手に腰を掴まれ、動きはさらに激しさを増した。
侵略する雄の存在を待ちかねたかのように締めつける裡襞が、カシス自身の理性を蕩けさせていく。
熱い昂ぶりに過敏な粘膜を擦られ、ビクビクと腰が引き攣った。
身体中が溶けてしまいそうな快感がある。
カシスの前を嬲るウルフの手が、根元を押さえ精の放出を妨げてしまう。
「ヤダ……ッ」
「イかせない。まだダメだ」
「あ……あ…………んう……ッ」
最奥を抉られ、腰がなんども跳ね上がった。外へ出ることの許されない快感が、身体の中で弾ける。
ぞくぞくと痺れて意識を保っているのが辛い。
絶えず揺すぶられて、堪らない刺激が脊椎を疾り抜けた。
感じる部分を的確に探り当て、ウルフはカシスを攻め続ける。
大きく突き上げられた瞬間に、カシスの半身が戒めを解かれた。強く擦られ、激しい疼きがこみあげる。
「―――ッ!」
声もなく達したと同時に、カシスは強すぎる刺激に意識を飛ばしていた。
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