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第4話

「……い、おい、健次郎」 「ふあ?」  父親に揺さぶられ、真っ暗な世界から引き上げられる。 「あー……親父、何?」  寝ぼけまなこで父親を見上げると、呆れたように溜息をつかれる。 「全く、これから式だというのに緊張感のないやつだな。そろそろ時間だ、起きれるか?」 「うん……」  いつの間にかソファーに寝転がっていたらしい。着物の崩れがないか確認してから起きあがると、父親の後を追う様についていく。どうやら、外に出るようだった。 (そういえば、今って何時なんだろう……?)  居間の窓から会館の方を見ると電気は点いておらず、打ち上げは終わっているようだった。  どのくらい寝ていたのかは分からないけれど、たぶん真夜中近いのだろう。 「あっ、そういえば親父! これから何があるのかいい加減教えて欲しいんだけど」  こんな格好までさせて、説明もないままなのは腑に落ちない。 「教えてもいいが、聞いた後に拒否は不可能だぞ」 「もともと俺に拒否権ないじゃん」 「それもそうだったな。まあ、簡単に言うと世代交代の式だな」 「世代交代? 白砂様と笛吹の?」 「あと、俺とお前の宮司交代もだな」 「ええっ!? だっ、だって俺、宮司の資格も何も持ってないよ?」 「建前上しばらくは俺が務めるが、実際は今日からお前がこの百代神社の正式な宮司だ。いいか、今日の式は百年に一度の大切なもの。これが成功するか否はお前にかかってるのだからな」 「う、うん……」  そんな大それたことを言われてしまうと、緊張してしまう。  父親が玄関を開けると、冷たい夜風が入ってきて目が覚める。頭に被さっているショールの様なものがふわりと舞い、健次郎の視界をクリアにする。 「……っ! 何、これ……」  目の前に現れたのは、たくさんの狐火で作られた本殿までの道だった。  暗闇に空中で淡く光る炎は一瞬だけ綺麗だと思ったけれど、この世のものではないと思うと背筋が冷たくなる。いつもの境内のはずなのにまるで異世界に迷い込んでしまったような光景に、後ずさりしてしまう。 「どうした健次郎。お前が来ないと始まらないんだぞ」  父親は平然とした状態で、すでに狐火で作られた道の半分くらいまで歩いて行っている。 「おっ、親父はこの状況を何とも思わないわけ!?」 「ん? 狐火の事か? 綺麗じゃないか。こんなのが怖いとか、健次郎も子供だなあ」  高らかに笑われ、対抗心に火がつく。 「べ、別に怖くないし! ちょっとビックリしただけだよ」  そうだ、こんなのただの照明だと思えば気にもならない。  父親のところまで大股で歩くと、そのまま追い越して本殿まで一気に近付く。賽銭箱の前に白砂が立っていた。 「遅いから来ないのかと思いました」 「……どうも」 「さ、どうぞ中に……」  促されて厨子の中へと入った瞬間、笛吹の大きな声が聞こえた。 「健次郎!」 「うぐっ」  ものすごい力で抱きこまれ、視界が笛吹の着ている服の真っ白で一色になる。 「遅いではないか!」 「く、苦しい……っ!」  腕の中でもがくと、笛吹は意外と簡単に身体を離してくれた。 「ああ、すまん。久しぶりの再会につい気分が高揚してしまった」 「久しぶりって……一週間も経ってないと思うんだけど」  大袈裟すぎる言い方に呆れてしまう。 「何を言う、お前の周りをうろついているあの金髪の男がいつかお前に牙を向くのではないかと、俺は心配でたまらなかったのだぞ!」 「は? 金髪って勝のこと? ないない! あいつ女の子大好きだもん」 「そんなもの、いつ意趣返しするかわからないだろう。あんなに健次郎に必要以上に近付くのはおかしい」 「幼馴染なんてあんなもんだと思うけど?」  驚くほど嫉妬している笛吹についていけない。 (もしかして、あの時姿を現したのも、勝に牽制してたとかなのか……?)  ちょっとだけ嬉しくて照れている自分がいて、だいぶ笛吹に毒されているなと思う。 「……痴話喧嘩もそのへんにして、そろそろ始めていいかい?」 「痴話……っ」  そんなんじゃない! と抗議しようと思ったけれど、笛吹の表情が引き締まり、とたんに緊張した空気になってしまったので開きかけた口を閉じる。 「健次郎、こっちだ」 「う、うん……」  手を差し出され、笛吹にエスコートされるように御神体の前へと歩いて行く。  父親と白砂が二人で何か祝詞の様なものを唱え始め、それを後ろで笛吹と並んで聞いていると、宮司しか入れない奥の厨子が開かれた。  初めて間近で見る御神体に緊張していると、中の扉が開かれたとたん、淡いピンク色の花弁がたくさん溢れ出てくる。 「なっ……」  花吹雪で周りを囲まれ、とっさに目を閉じる。それと共に、甘い香りが部屋の中に満ちて行く。 (この匂い……笛吹と同じ)  嗅いでいるうちに、その甘ったるい香りに身体から力が抜けそうになる。ふらりと健次郎の身体が傾いたのに気付いたのか、横にいた笛吹が腰を支えてくれた。 「あ、ありがと……」 「いや、お前にはまだこの香りはキツイだろうしな。仕方のないことだ」 「え……?」  いつの間にか風がやみ、一面を覆っていた花はどこにも見えない。 (まさに、狐に化かされる……って感じ)  狐火に季節外れの花吹雪、おまけに隣に立っているのは人の形をした狛狐だ。  荒治療とはよく言ったもので、あんなに怪奇現象が怖かったのに、今では普通に受け止めている自分が居る。  目の前で怒っている事があまりにも非現実過ぎて、自分の目を通して映画を見ている様に感じているからなのかもしれない。 「笛吹、健次郎、前においで」  白砂に呼ばれた方へと行くと、御神体の前に置かれた台に漆塗りの銚子と盃が乗った屠蘇器があった。 (なんか、結婚式みたいだな……)  そう思うのは、自分も笛吹も白い着物を着ているせいなのかもしれない。  流れる様な動作で盃にとろりとした液体が注がれ、二人に渡される。 「桃の香りだ……」  お屠蘇かと思いきや、違うというのは何か意味があるのだろうか。 「これは仙桃の花で作った酒だ。桃には災厄や魔を寄せ付けない効果があるのと同時に、不老長寿の実として有名なのは知っているか?」 「う、うん……何となく」 「御先稲荷の交代の儀式として、この酒を二人で飲むことが必要不可欠なんだ」 「ふうん……」  よく分からないけれど、これを飲めば式は終わるようだった。  出来る事なら早くこの緊張してピリピリする現場から脱出したいし、着物も窮屈で早く脱ぎたいので自ら進んで笛吹に声をかける。 「飲む前に何か言ったりするの?」 「ん? ああ、俺が祝詞を詠んだ後に酒を飲むから、その後に健次郎が飲んでくれ」 「分かった」  頷くと笛吹は正面を向き、目を閉じてゆっくりと言葉を紡ぎ始める。祝詞と言っていたけれど、何と言っているか分からないその言葉は、多分神使にしか分からない言葉なのだろう。  低くて柔らかなその声は、悔しいけれど聞いているだけで自分の心の中に深く響いていくほど美しい。 (綺麗だな……)  見惚れてしまう程、笛吹の横顔は凛々しくて、彼がこの世のものでない神使なのだと感じる。 「――健次郎、盃を」 「え……あっ」  いつの間にか祝詞は終わっていたらしい。慌てて盃を煽ると、甘い香りと反して強い酒で喉が燃えるように熱くなって、思いっきりむせる。 「っ……あっ、熱……っ!」  度数の高い酒を飲んだ時と同じような、喉の焼ける感覚がずっと収まらない。それどころか、どんどん身体の奥の方に熱さが浸食していくような気がして、その場に崩れ落ちる。 「健次郎、大丈夫か?」 「あ……笛吹」  助け起こそうとしてくれた笛吹が触れた瞬間、どくんと大きく心臓が跳ねる。 「……っ! さ、触るなっ!」  手で押しのけて、肩で大きく息をする。零れ落ちる息がとても熱い。  一体、あの酒には何が入っていたんだろう。 (何だよこの状態……)  全身をまわった熱は、下半身へと集中してズキズキと痛くなるほど自分が欲情しているのが分かる。  部屋の中と、自分の身体の中からも香るような桃の匂いに、身体の芯からじわりと甘い蜜が湧きでるように疼いて、甘ったるさに頭がおかしくなりそうだった。 「思ったよりも反応がすごいな」 「は……?」 「まあ、それだけその酒と相性が良かったんだろうな。さすが俺が見染めた伴侶だ」 「ど……いう、事だよ」  悶えている健次郎を興味深々に見つめる笛吹を、思わず睨みつける。 「あの酒は神使の呑む酒だ。呑んだ者は神使と契約した事になり、それと同様のものになる」 「それって……俺は人間じゃなくなったってこと?」 「俺の伴侶になるのだから、当然だろう。まあ、人間には強すぎる酒で、呑むと媚薬と同様の効果があるのだが……お前には強く効きすぎているみたいだな」 「サラっと大事なことを簡単に言うな! 俺、人間じゃなくなるなんて話、聞いてない……っ」  手前に立って事を見守っていた父親を見つめると、困惑した表情を浮かべていた。 「すまない、健次郎。これがお前に言っていなかった、うちの神社の宮司にしか伝えられていない事なのだ」 「は……?」 「百年に一度、御先稲荷の交代の際に百代の血統の者が婚姻を結び、二人の間に生まれた子が次代の御先稲荷になる。花嫁または花婿を差し出す代わりに、この地域を彼らは守ってくれる約束だ」 「そんな……」  ふいに、笛吹の言葉を思い出す。 ――お前の先祖も通ってきた道だ。 (あれは、こういう意味だったのか)  言い方は上手いけれど、生贄みたいなものだ。  予想もしていなかった真実に、考えが追いつかない。  どんな返事をしたらいいのか、迷っている間にも身体の疼きはどんどん酷くなっていて、顔をあげているのも辛い。 「……っ、俺は、どうなっちゃうんだよ……っ」  かんしゃくを起こした子供みたいに、大声をあげる。 「健……」  心配した父親が手を伸ばそうとしたよりも先に、笛吹が健次郎の前へかがむ。 「笛、吹……っ、お前のせいだ! お前が、俺を選んだりしなきゃ……っ!」  笛吹の胸を叩く。けれど、弱すぎてそのまま滑るように落ちていく手を笛吹が強く握った。 「そうだな……俺のせいだ」 「え……?」  あまりにも素直な謝罪に、動きを止める。両手でそっと包まれ、笛吹の顔が近付いてくる。 「安心しろ、責任を持ってお前を気持ち良くしてやる」 「はあ? ちょ……っ、うわっ!」  ドヤ顔で意味の分からない事を言われて唖然としていると、ふわりと身体が宙に浮くような感覚がして、笛吹に抱きあげられたのだと気付く。 「おい、何抱きあげてんだよ、降ろせっ! 親父っ、見てないで笛吹に何か言ってよ!」  父親に助けを求めたけれど、所詮父親も健次郎の味方ではない。 「健次郎、立派に務めろよ」  なんだかもう、清々しいまでの笑顔で送り出されてしまった。 「親父のオニーっ!」  いくら神社の為とはいえ、我が子を男のしかも狐に嫁がせるとか異常すぎる。 (もう、自分で自分の身を守るしかない) 「降ろせ笛吹っ!」 「そんな急かさなくても、すぐに降ろしてやるから待っていろ」  もがいても笛吹はバランスを全く崩すことなく、本殿の奥へと歩いていく。いつの間にか見知らぬ襖が現れていて、片手で器用にそれを開けて中へと入る。 「ど、どこ行くんだよ」  とても本殿の中とは思えない板張りの長い廊下が現れ、笛吹はそこを迷うことなく歩いていく。 「野暮なことを聞くな。祝言を挙げたら初夜に決まってるだろう」 「初っ……」  笛吹の言葉に一気に顔が真っ赤に染まる。 (そういえば、さっき二人の子供って言ってた気が……)  どう考えても、男の自分に子供が出来るわけがないのに、初夜とか意味がないような気がする。 「冗談……だよな? 伴侶って言っても、形式だけなんだろ?」 「何を言っている。身体も繋がらなくては意味がないだろうが」 「あのさ、何度も言うようだけど、俺は男……っ!」 「分かっている」  笛吹の足が止まり、くるりと世界が回る。  背中に柔らかい感触がして、自分が布団に降ろされたのだと気付いたのと同時に、上に圧し掛かってきた笛吹に唇を塞がれる。 「待……っ、ん」  待てと言う前に、声は笛吹の唇に飲みこまれる。角度を変えて何度か啄ばむようにキスを繰り返され、軽く下唇を噛む感触に腰の奥がじわりと熱くなる。 「んっ……はっ……」  怒涛の展開に忘れかけていた酒の効果が再び身体中に一気に回り、甘い疼きに支配される。 「俺は前に言った筈だ。お前が男でも構わないと。その眩しいくらい清い身体を、早く俺のものにしたい……」 「……っ!」  笛吹の燃えるような赤い目が、欲望で更に濃くなる。  射抜かれるかと思うくらいの強い眼差しに、めまいすら感じて顔をそらしてしまった。 (怖い)  見つめられただけで、中心が痛いくらいに反応している。行為が進んで触られたりしたら、自分がどうなってしまうのかが怖かった。 「まだ恥じらいがあるのか」 「やっ……」  顎を取られ、深く口づけられる。息まで喰らい尽くされそうな力強さで口内を蹂躙され、飲み込めなかった唾液が口の端から零れ落ちていく。  その感覚にすら肌が粟立ち、身体が小さく震える。 「ふふ、だいぶ回ってきたようだな、もっと素直に快楽だけを追うがいい。その方がお前も楽になる」 「楽……に?」  笛吹の声がまるで呪術のように耳に流れ込んでくる。 (離れなきゃ……ダメなのに)  なけなしの理性がそう言っているのに、身体はピッタリと笛吹にくっついている自分がおかしい。 「触られて、どこか好きか教えてくれ」 「んっ……」  甘い声に耳が犯される。健次郎の反応を楽しむように、笛吹は耳たぶを尖った歯で甘噛みしてから、ゆっくりと首筋や鎖骨へと唇を這わしていく。 「ちょっ……見るなっ……」  いつの間にか肌蹴られていた着物は引っかけているだけの状態で、下着もつけていなかったせいでほぼ全裸を笛吹にさらけ出している。  恥ずかしくて笛吹の顔を手で覆う。 「なぜだ? お前の身体はどこも綺麗だぞ。それにとても美味そうな匂いがする」  そう言いながらペロッと指の股を舐められてしまい、押さえていた手をつい離してしまった。 「……っ、そういう獣じみたことすんな!」 「本能には神使とはいえ逆らえないのでな」  腕を布団に縫いつけるように抑えられると、再び笛吹の顔が沈み片側の乳首を口に含まれる。 「やっ……あっ!」  ザラっとした舌が乳首を舐め、吸い上げる。その後に軽く歯を立てられ、焦れるようなむず痒さに腰が揺れる。  それに気付いたのか、笛吹の片方の手が腹を撫でながらそのまま天を仰いでいる健次郎のものへと触れる。 「もう根元まで零れているぞ、そんなに乳首が気に入ったか?」 「っ……こ、これは酒のせい…っ、ん、あぁっ!」  長い指が茎に絡まり、先端から根元まで大きく扱かれる。  先端の割れ目からはとめどなく先走りの液が出ていて、ヌチュヌチュといやらしい水音が聞こえて羞恥で頭がおかしくなりそうだ。 「あっ、あっ……」  他人に触られるのが、こんなに気持ち良いなんて知らなかった。  あっと言う間に頂点まで追い上げられてしまい、すすり泣くような声をあげながら、健次郎は笛吹の手に吐き出してしまった。 「早いな」  ペロッと手についた白濁を舐める笛吹の表情は、野生の雄の色気に満ちていて、達したばかりだというのに疼きが強くなる。 (どうしたんだろう、俺……)  ぼんやりと見上げると、満足そうに微笑む笛吹と視線が絡まった。 「だいぶいい顔になってきたな……もっと溺れろ」 「や、やだっ……」  捕らえられる。  本能的な怖さを感じて重い身体を反転させ、笛吹の下から這い出そうと試みる。  布団から半分身体が出たところで、背後から抱き締められてわざと体重をかけられてしまい、ただでさえ力が入らない身体は簡単にその場に潰れてしまった。 「自分から受け入れやすい体勢になるとは……」  微かに笑う声が聞こえ、肩を噛まれる。 「えっ? ひっ……」  笛吹の熱く硬くなったものを尻の辺りに感じ、自分の状況を悟る。 (逃げるどころか、更にピンチじゃないか、これ) 「まあ、そんな抜けたところも可愛いがな」  楽しそうに笑われてしまい、頬だけじゃなく耳先まで羞恥で赤く染まった顔を畳に突っ伏す。 「頼むから、俺に可愛いとか言うな……」 「何故だ? 可愛いものを愛でるのは普通だろう」 「俺には普通じゃない……っ、あっ……」  反論しようと身体を起こしたのを見計らう様に、笛吹の指が挟間を割る様にして入りこみ、窄まりに触れる。 「い……っ」  本当に自分に突っ込むつもりなのか。  襞をほぐすように指の腹で何度も擦られると、そこが熱く疼き始める。 「また前も反応し始めたな、ここもすぐに柔らかくなりそうだ」  前に回ってきた手が再び健次郎のものを包みこみ、感じる先端部分を擦りあげる。 「んんっ……あ、そこばっかり弄ん、な……」  弱い部分ばかりを触られると、また訳が分からなくなってしまう。  重なる笛吹の身体から漂ってくる、あの甘い桃のような香りがだんだんと強くなってきて、身体の中が疼いてもどかしくてたまらない。  自分の吐く息ですら甘いような気がしてゾクゾクと湧き起こってくる快感に身悶えていると、襞を擦っていた指がゆっくりと中へと侵入する。 「すごい熱さだな」 「っ、あ……や……」  違和感はあっと言う間に消え、指を誘いこむように中が伸縮し始める。健次郎が放ったもので濡れている指は、滑る様に何度も出入りを繰り返し、やがて掻き回すような動作へと変わっていく。 「ひっ、ああっ……!」 「ん、ここが気持ち良いのか?」  指の角度を変え、健次郎の反応する場所を執拗に責められ、浅い呼吸を繰り返して身悶える。  早く、もうなんとかして欲しい。  ギリギリのところで耐えていた理性を放り投げ、熱く溶けそうになった身体をめちゃくちゃにして欲しいという感情が膨れ上がっていく。  そして、それを遂げてくれる相手はひとりしかいない。 「う……笛吹っ、も、やだ……、苦しいっ……」  首を捻って、掠れた声で背後にいる笛吹に懇願すると、目を瞠ってから、上唇を舌で舐める仕草をする。  獲物を狙う獣のような強い瞳に、また身体の熱が上がる。 「健次郎……ずっと、この時をまっていたぞ」 「あっ」  中を弄っていた指が抜け、ひくつくそこに熱い切っ先が触れる。 「あ、あ、んっ……」  狭い入り口を割くように入ってくる衝撃に、勝手に声が零れ落ちる。痛みはあったけれど、耐えられないほどじゃない。圧迫感に苦しさを覚えるくらいなので、たぶん酒のせいで自分の身体に余計な力が入っていないのと、笛吹が上手いのだろう。  笛吹は伺う様に自身を埋めると、健次郎の中が馴染むのを待ってからゆっくりと律動を始める。 「んっ、あ、熱……いっ……」 「ああ、お前の中は熱くて、とても気持ちがいい……」  笛吹の恍惚とした声が背中に落ち、それすらも快感の種になって身体の中の熱を膨張させていく。  それは笛吹も同じらしく、健次郎の腰を掴み直すと、より深く繋がろうと大きく抜き差しを始める。 「やっ、笛吹っ、そんなおっきく動かな……っ」  ガツガツと腰骨が当たるくらい、強く突き上げられ、頭の中が真っ白になる。 「健次郎っ、健次郎……っ」 「ひぁっ、あ、や……あ、あっ……」  熱にうなされたように呼ばれる名前に、胸がきゅうっと甘く締め付けられる。  これは、嬉しいという感情だ。 (くそっ、こんなのって……)  身体で落とされているようで、本当に悔しい。  それでも拒むような理性はもう残っていない。  身体中全部、笛吹に甘く溶かされていくような快感に健次郎は溺れていった。

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