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第20話

「オレ達貧乏人が、金欲しさに上流の奴を襲うってんなら頷ける。でも金目のものなんて持ってない人を()ったところで何になる? 貧民街の世界は広いようで結構狭いから、顔見知りも多い。そんな奴同士で()り合うとも思えない。なら残るのは誰だ?」  訊かないでくれ。その先は知りたくない。 「王様だよ。あいつは貧民街を無くしたいと思ってる。オレ達みたいな人間も」 「――っ!」  衝撃のあまり、上手く声が出せなくなった。頭の中では思考回路がぐちゃぐちゃに絡まり合っていて、正常に機能していない。 「ここの者達が要らない人間だとでも思っているのか、あの人は!?」 「王様はそう思ってる。兵士をここに送り込んで、働けなさそうな奴は殺していく。十分に動ける男は連れて行かれて見世物(みせもの)にされるんだ」 「見世物だと?」 「闘技場に男二人をぶち込んで、どちらかが死ぬまで戦わせるんだ。それを観るのが貴族の間で一番の娯楽なんだとよ」  あまりのむごさに、とうとう言葉も出なくなる。  それだけでない。王宮にいた自分よりアカネの方が国王を知っていることに、引け目を感じていた。箱に入れられて育った自分は、本当に無知だったのだ。  散々事実を突きつけられて、もはや現実逃避も叶わない。 「オレは今の王様が嫌いだ。皆殺されていったから」 「……ごめん」 「なんでフィオが謝ってんだよ。っていうか、顔色悪いけど大丈夫か?」 「だい、じょうぶだ。何ともない」  父は一体どこで道を踏み外したのだろう。貧民街を無くしたいという想いは同じなのに、そのやり方はまるで違う。無くしたいから殺すなんておかしい。絶対に間違っている。  ではどうすればいい? 王宮に帰って即刻やめさせようとしても父はフィオの話など聞かないだろう。それでもフィオは、貧困と国王からここの人々を救いたい。 (父上が王宮から攻めてくるのなら、俺がここで守るのみだ)  フィオには、王都の誰よりも貧民の近くにいる自信がある。ここが自分の帰るべき場所になった以上、王宮は敵も同然だ。  初めて湧き上がった父への闘争心は、遅すぎる反抗期の始まりだった。 「なあ帰ろうぜ、フィオ」 「ああ」  曇りかけていた空は、日暮れのせいで不気味な色に染まり、貧民街に暗い影を落としていた。  それを切り裂く明るい光を、きっと誰もが求めている。

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