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第22話
「……なあ、君達はここで“仕事”をするのか?」
「そうだよ」
連れてこられたのは、フィオの背よりも高く積まれた瓦礫(ガレキ)の山。それが辺り一面に広がっている。
「因みに、仕事内容は?」
「ここに落ちてる硝子 とか煉瓦 とか、鉄くずを拾うの」
「そういうのを集めればまた新しいものを作れるからな。職人に売るんだ」
そう言って無邪気に笑う子供達は、皆裸足だ。もし足を切ってそのままにしておけば病にかかる可能性もある。それを彼らが知っているのかは定かではないが、靴を買う余裕もない人が殆どだということは承知している。
「はい、お兄ちゃんもこれ持ってね」
少女に麻袋を持たされたかと思うと、三人は一斉に瓦礫の山に向かって駆けだした。そして緩やかな傾斜をすいすいと上っていく。
「ほら、お兄さんも早く来てよー」
声のする方を仰ぐと、三人がフィオに向かって手を振っていた。その姿はただ瓦礫の中で遊んでいるようにさえ見える。だが彼らは、目が霞:(かす)むような陽射しの中で、危険と隣り合わせの“仕事”をしているのだ。
(あの子達を救うには……そうだ)
「みんな、ちょっと集まってくれないか?」
咄嗟に思いついた方法は、果たして彼らの役に立つのか。それでも、無いよりはマシだろう。
三人が山から下りてくる間に、フィオは耳飾り を外しておいた。王宮を出る際に装飾品は控え目にしておいたが、貧民街に来たらそれでも豪華すぎることが分かった。
髪を売ってからは耳元が髪で隠れていたので、自分でもその存在を忘れかけていたところだ。
「なになに?」
「みんな、この仕事はもう終わりにしよう」
「そんなことしたら稼げないだろ」
「だから君達に、これをあげる」
フィオは子供達の前に膝を折って握っていった手を開く。すると三人はまるで幻術を見たかのように、わぁっと歓声を上げた。
「これなあに? すっごくキレイ!」
「耳飾り(ピアス)だよ。俺にはもう要らないものなんだ」
それは雫の形を模した青玉 の飾りが付いていて、日の光を燦々 と跳ね返していた。
「これを売って、得た金をみんなで分けるといい」
「いいの!?」
「ああ。ただし、君達以外にも困ってる人がいたら分けてあげるんだよ」
青玉 自体は小指の爪ほどの大きさだが、フィオの銀髪よりも高価なのは確実だ。
貧民街の者は宝石など見たことがないはずだから、耳飾り(ピアス)の値段を聞いた子供達はさぞ驚くだろう。
「これ本当にキレイだけどさ、実はただの硝子玉なんじゃないのか?」
「そんなことはないさ。これは青玉 という宝石だ。子供だけでは使い切れないくらい高いんだぞ」
「お兄さんの大切な物じゃないの? もらってもいいの?」
「言っただろ、俺にはもう要らないんだ。むしろ、もらってほしい」
「そこまで言うならもらってくぜ」
少年が耳飾り を摘まみ上げて太陽に翳 すと、青い光がまばらに散った。それを見て三人は再びはしゃぎ出す。
「みんな、今日の仕事は終わりだ。いいな?」
「うん!」
「ありがとうお兄ちゃん」
「ほら、行っておいで」
「おう! またなー」
走り去っていく三人に手を振りながら、これで良かったのだろうかと思いを巡らす。全て金で解決しようと考えている訳ではないが、フィオに出来ることといえばこのくらいしか浮かばない。いざという時に本領を発揮できないなんて、情けないものだ。
(俺はどうすればここの人達を救えるんだ)
突っ立っていても何も始まらない。取りあえずここを離れようと歩き出すが、その足取りは重かった。
だけどその分、貧民街をじっくり見て回ることができた。
(ここは暗い場所だと思われがちだが、意外と皆明るく暮らしてるんだよな……)
人々が密集して住んでいるので、その繋がりも深くて強い。しばらく荷運びの仕事で家を離れるから近所の人に子供を預かってもらう、なんてことは日常茶飯事だ。
それに加えて笑顔でいる人が王都よりも格段に多いし、大らかな人もたくさんいる。細かいことをいちいち気にしていたらとても貧民街では暮らせないというのもあるが、住民達の仲の良さがそういうところにも滲み出ているのだ。
だが一度:(ひとたび)影に目をやると、その様子は一変する。
「あの人は……」
貧民街には大小いくつものゴミ捨て場があるが、以前アカネと訪れた、一番大きなゴミ捨て場の横を通りかかった時。赤ん坊をおんぶしてゴミを漁っている若い女性がフィオの目に留まった。どちらも痩せ細っていて、肌は煤 や泥で汚れている。
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