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第43話(終章)
次の日の朝を迎え、豪勢な朝食に戸惑い気味だったアカネも、結局は美味 い美味いと言って全て平らげてしまった。
今は部屋に戻って食休みをしているところなのだが、だんだん外が騒がしくなってくる。
「何だ、王宮が慌ただしいな……」
窓の外を見てみると、王宮に仕える兵士や使用人達がそこかしこを走り回っていた。ちゃんと情報の伝達はできているのだろうか。
(ま、できてたらあんなに混乱してないだろうな)
今はちょうど議会が開かれており、国王も他の議員達もそれに出ているからフィオラートが代わりに行くことにした。
「アカネ、少し外の様子を見てくる」
「じゃあオレも行く!」
ひとまず狼狽えている使用人達を捕まえて事情を聞けば、フィオラートにも指示が出せることがあるかもしれない。衛兵に扉を開けてもらい、アカネと一緒に部屋を出て階段を降りていくと、曲がり角でレンツと出くわした。
「で、殿下! 良い所に……たい、大変なことが起こっておりまして。落ち着いて聞いて下さい」
「まずはレンツが落ち着いたらどうだ」
「これが落ち着いていられますか!」
彼がこんなに慌てたところを見るのは初めてだ。フィオラートにも自然と緊張が走る。
「あの、あの……イフターンの第六王太子が急にお見えになって」
「イフターンの、王子……?」
「はい。今は国王陛下が議会に出ておられるので、殿下に応対していただきたいのですが」
「分かった、すぐ行く」
ラジオーグの支配下とはいえ事前に何の知らせもなく訪れるとは、これまた初めてのことだ。よほど急いでいるか、大事な用件なのだろう。
不安げにフィオラートを見上げてくるアカネの頭を撫で、正門へ行こうとしたらレンツに引き留められてしまう。
「殿下、お話はそれだけではないのです」
「今度は何だ?」
「それが、イフターンの第六王太子は既にお亡くなりになっておりまして……」
「なら今来ているのは誰だ?」
「紛れもなくイフターンの王太子です、紋章が入った指輪をしておられるのですから」
話が矛盾している。死んだはずの人物がなぜここにいるのだ。王宮の者は皆幽霊でも見えているのだろうか。
「レンツ……其方(そなた)、何を言ってるか分かってるのか?」
「ええ私もおかしな事を言ってる自覚はあります! しかしそれが事実なのでこうも混乱しているのです。殿下、早く行きましよう」
「そ、そう急ぐな。アカネ、悪いがやっぱり待っててくれ」
「えっ、フィオ!?」
階段を駆け下りホールを突き抜け巨大な扉の外に出ると、たまたま議会に出ていなかった大臣が対応に当たっていた。
「あぁ殿下、このお方がイフターン王国の……」
大臣の手の先。
馬車にも乗らず、家臣も従えず、その細い足で独り歩いてきたことをまざまざと浮かばせる青年。よれよれの服を着た、金髪に青い瞳の――。
「レノルフェ……!」
「よ、王子様」
これは幻影? それとも白昼夢?
百歩譲って、目の前に居るのがレノルフェだということは認めよう。だが、第六王太子というのはこれが夢であっても信じられない。
「殿下、レノルフェ様のことをご存知 なのですか?」
「知っているもなにも――」
「あー、レノ! 何でここに居るんだよ!?」
飛び出してきたのはアカネだった。ついてきてしまったのか。
「アカネ、やっぱりここに居たのか。勝手に抜け出しやがって」
「だってフィオに会いたかったから」
「そんな事を言ってる場合じゃない! レノルフェ、イフターンの王子というのは一体……それに死んだことになってるって」
「ゴホゴホ、……これだからラジオーグは駄目なんだよな。都合の悪いことは全部隠すから」
聞きたいのはそんな悪態ではない。レノルフェが王子と呼ばれ、死んだことにされている所以(ゆえん)だ。大体、不都合なことを隠そうとするのは父の悪い癖なのだ。
「もう何が何だか……」
「それより、とっとと中に入れてくれねーか?」
「そうだな、済まない。――レンツ、応接間の準備はできているか?」
遠慮のいらない仲とはいえ、客人をいつまでも外に立たせるのは失礼だ。いくつかある応接間が埋まってないか確認しようとしたら、軽く制された。
「いや、そこまでしなくて良い。俺達三人だけで話がしたいんだ」
「三人だけ……目付役も入れてはいけないのか?」
「他の奴らには後で話すから、まずはフィオとアカネと話したいんだ」
レノルフェの真剣な眼差しに押されて、フィオラートは自分の部屋に彼を招くことを決めた。
「なら俺が案内しよう」
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