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第47話
アカネが議場を見渡すと目を逸らす者が何人かいた。彼らが人身売買に関わっていたのだろう。そんな者は新たな王政には要(い)らない。
「お前らはオレ達を人だと思ってないんじゃないのか? 貧しくて薄汚いからラジオーグの面汚しだと思ってんだろ!」
アカネの叫びに、国王が反駁 する。
「当たり前だ。貧民街に住まうのはイフターン人が殆どではないか」
「そんなことはないぜ。今はイフターン人の方が少し多いくらいで、同じくらいの比率だ」
あそこは二つの国の者が共存する数少ない場所。レノルフェのお陰で両国民が繋がり、協力し合って生きている。貧民街を放っておくということは、貧困に喘ぐラジオーグ国民も見捨てているのと同義だ。
「今まで大勢の奴らが殺され、連れ去られた。それは全部お前の仕業なんだろ! お前みたいな奴に王様なんて務まらねーよ」
その時、一番前の列に座っていた公爵が立ち上がる。
「陛下、やはり貧民街救済の為の予算をもっと回すべきだったのでは……」
公爵につられたように他の貴族達も次々と国王に迫った。
「以前よりも格差が広がっているのは、救済案を出さないからではないでしょうか」
「あまり貧民を虐げると反逆の傾向が高まってしまう」
「貧民を殺すなんてあんまりだ」
議場は国王への非難の声で混沌とし、元の形式を保っていなかった。
「こ、これは……」
もちろん中には何も言わないで座っている者が数人いたが、それを除けば皆が国王への怒りの声をぶつけていた。フィオラートと同じ考えの者がこんなにもいたのなら、もっと早く行動に移していれば良かった。
「静まれ! 汝 ら、私のやり方がそんなに不満か」
国王の一声で議場が静まり返る。後になって怖くなったのか、貴族達は再び腰を下ろした。だが味方が一気に増えたようで心強い。
ここからはフィオラートの出番だ。
「不満なんてものではありません。怒りさえ湧いてきますよ」
「フィオラート……」
「貧民街は衛生状態が悪く、病気になる子供もたくさんいます。読み書きが出来ない為にろくな仕事にも就けず、ぼろぼろの身体で働いている。それでも賃金は少なく、貧困から脱するには程遠い。そんな者が子供を産めばその子もまた貧困に苦しみ、負の連鎖が続くのです」
貧民街で見たこと、経験したこと、感じたこと。どれもがフィオラートの糧となっている。
「ラジオーグを変えられるのはこの私です。貧民街で過ごし、王宮、いや王都の誰よりもそこを理解している私こそが新たな時代の王に相応(ふさわ)しい」
「お主が、王だと……?」
「はい、国王陛下の行いは弾劾に値します。よって、ここに不服を申し立てる」
「く……ッ」
フィオラートは一度アカネと眼を合わせてから貴族達を振り返った。
「現国王に代わり、私がラジオーグの王となる。異論の無い者は起立を願おう!」
すると議場は一斉に動き出した。大多数どころか、ほぼ全員が立ち上がる。
「――!」
自分で引き起こしたくせに目の前の状況が嘘だと思えてしまった。フィオラートについてきたいと思う者が、こんなに。同時に割れんばかりの拍手が議場を覆い尽くした。
「やったな、フィオ!」
「わっ」
胸に飛び込んできたアカネを受け止めきれずにふらついてしまう。現実味が湧かなくて放心しているフィオラートの眼にはアカネの笑顔が映り、耳には大音量の拍手と歓声が届いてくる。
「本当に…本当にやったのか……?」
「そうだよフィオ、お前が今日から新しい王様になるんだ!」
高い壁にあるステンドグラスから差し込む色とりどりの光が、アカネを輝かせていた。
「――は、ははっ……」
「フィオ?」
「ついに……遂にやったんだ。これで貧民街を救える。アカネとも、一緒に居られる…っ」
身体がふわふわするような昂揚感に襲われて、アカネの背中をかき抱く。
嬉しい。多分、今までの中で一番嬉しい。
フィオラートは大きく息を吸い込んだ。
「皆 の者! たった今より、私がラジオーグの国王だ!」
いっそう大きくなった歓声が、アカネとフィオラートを包み込む。
顔を真っ青にしてうな垂れているいる元国王は、憎らしげにフィオラートを睨んでいた。
「父上、貴方には王位を退いていただきます。それから人身売買に関わった者は王宮から出て行ってもらう」
「好きにしろ。この様 を見て、まだ私が王だと言い張るほど阿呆 ではない」
父は意外にもあっさりと引き下がった。もしや、こうなることを予想して――。
(そんな訳ないか。これは俺とアカネが掴み取った勝利なんだ)
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