17 / 44

第17話

 そっと触れると、遥人の唇はかすかに震えていた。  ゆっくり圧をかけると、柔らかな感触が拓の全神経を巡った。  キス、した。  遥人と、キスしたんだ。  歓喜に、興奮する。  全身が、熱くなる。  しかし、唇を離すとともに、遥人の姿はかき消えた。 (やっぱり、夢なんだ)  それにしても、やけに現実的な感覚を伴った夢だ。  いつまでも、目が覚めないのもおかしい。  奇妙な気持ちに襲われていると、もう一度他人の声がした。 「いや、これは夢ではない」  仰天して声の方を見ると、そこには黒いスーツを着た男が立っていた。

ともだちにシェアしよう!