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Ⅱ
―――
朝、目覚まし時計の音で起き上がる。カーテンの隙間から差す光がやけに青白く、今日は雨だと雫が滴る音が知らせてくれる。ダルい身体を起こして、学校へ行く支度を済ませると傘を持って家を出た。
じめじめした空気が肌に纏わりついて、通学路を歩く足取りは水溜まりを気にするせいで一歩一歩が無意識に遅くなる。
「うわ。やっば」
学校に着いたのは、決められた登園時間のギリギリで急いで上靴に履き替えて自分のクラスに向かって階段を駆け上がった。
滑り込みセーフで入った教室の中は、ほとんどの生徒が登校していて朝のHRの始まりを告げるチャイムが鳴れば、各々の席に着く。
「すーっ……っはぁ… 」
「何、葵斗。珍しくギリギリじゃん」
「零央、おはよ」
「はよ」
なんとか間に合って机に顔を伏せて安堵する僕に話しかけてくれたのはクラスで一番仲が良い、当坂零央(とうさかれお)。三年になって直ぐの時、それまでの二年間は全く接点が無かったのにクラス替えで初めて同じクラスになると、自分たち自身でも驚きのスピードで親密になった。零央のことは一年の時から、僕から一方的にその存在は知っていた。
校則で禁止されている染めた髪を隠しきれていない色落ちした茶髪に、長い前髪を女子みたいにヘアピンで止めて、プライベートではジャラジャラと付けているだろう目立つ耳のピアス穴の数、身長もスラッと高く良い意味でも悪い意味でもその存在は目立っていた。
「怖そうな人だ」
きっと僕とは無縁だ。と背を向ける。そんな第一印象。
会話なんてする機会も無いし、学年で目立っている存在なのも変わらず、接点も無いまま一年、二年と過ぎていった。三年になり、席が前後になると零央の方から話し掛けてきた。
「初めまして。だよね?」
「あ、はい。そう……ですね。同じクラスになるのは初めてですね」
緊張した。同じ歳なはずなのに、敬語になった。
あの怖そうな同級生が僕の前の席で今、僕に向かって話してくれている。
肩に力が入りながらも、目を合わせず会話するのは流石に失礼だと思い、勇気を振り絞って顔をあげ零央の目を見た。
(あ…れ?)
合わさる視線は零央が高く、少し見上げる。それよりも拍子抜けしたのは、零央の瞳の穏やかさだ。見た目で視線も鋭く怖いと思っていたけど、ただの思い込みだったようで、その瞳は丸く、大きくそして美しかった。
「当坂くん。だよね?」
「そうだけど?よく知ってるね。君、名前は?」
「知ってるよ。有名人じゃん。僕は須藤葵斗」
「じゃあ、葵斗。俺は零央って気軽に呼んでくれよな。よろしくー」
笑う零央は無邪気な子供みたいにその綺麗な顔が崩れた。
この人なら、仲良くなれそうだ。と零央に対して本能で思った。
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