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飲まれる人
お題:『ダメなところ』
◇
やっと鳴った着信は2時過ぎ。
『今あ、ついたあ。タクシー乗っ』
電話口からは奴の間延びしたアホな声が聞こえた。途中で切った。エレベーターを待つのももどかしく階段を一気にかけ下りる。
マンションの入口にはタクシーが止まっていて、後部座席のドアが開いていた。シートの上では俺を見つけた大和 がぶらぶら手を振っていた。
運転手にタクシー代を払ってから大和の肩を担ぎながら車外に降ろす。
「えへへぇ、由良 あ、たっだいまあー……」
「はいはいお帰り」
「由良あ、好きい……」
「あーもうわかったからちっとは歩け」
喋ってるくせにこのバカはもう半分以上寝てる。俺の支えが無かったらこの場でひっくり返って寝るだろう。力が抜けて重い大和の身体をなんとかマンション内へと引きずった。
ちらりと大和を見てみる。
スーツこそ着崩れているが鞄はしっかり握っている。靴も履いている。スマホも財布も持っていたが、朝していたはずのネクタイ見当たらない。
大方どこかで外して無くしてきたんだろう。別に珍しくもない。
大和は酒癖が悪い。
初めて出会ったときだって、バーで酔ったこいつに絡まれた。
今だって覚えてる。第一印象は最悪だった。
自分の仕事の愚痴をずらずら喋り続けて離さない。んで、散々他人に絡んだあとはその場で寝やがる。
そのくせ酒を飲むのが好きで、毎回毎回懲りずに酔っ払う。
俺と一緒に住むまで、朝まで駅で寝てたとか道で寝てたなんてこともザラだった。
「ゆーらぁー」
「う、おっ!?」
やっと部屋まで辿り着いて玄関にあがると、大和が背中越しに思いっきり体重をかけてきた。
でかい男の体のフルパワーはさすがに支えきれず廊下に膝をつく。
大和は後ろから俺を抱きしめてきた。
どうせ振りほどけないし、仕方なくされるがままになってやる。
「由良あ、ただいま」
「……。お帰り大和」
「怒ってますう?」
「別に。タクシー代が嵩むよなあとは思ってる」
「怒ってんじゃあん」
「こんな手間かかるんなら無理に帰ってこなくてもいいんだけどな」
ちなみにこれは本気だ。毎週こうして飲んだくれてるくせに、深夜か遅くても空が白む前には帰ってくる。毎度タクシーを使うせいで本気でその出費もバカにならないのだ。
よっぽど朝帰りのほうが経済的だ。
俺の丸出しの棘に、何が面白いのか大和はくつくつと笑う。
そしてなぜか大和の唇が俺の首筋に当たる。
熱くて酒臭い吐息が降りかかって慌てたが大和はびくともしない。
「っ、おい」
「だって、由良がおうちで待ってるもん……」
さっきは臭いと感じた酒の残り香に、今ではむらっときてしまうあたり俺もだいぶ重症だ。
結局そういうところも好きだから腹が立つ。
大和が押し付けてきた唇を受け入れて、俺は毎週金曜日のいつもの流れにまた飲まれた。
-了-
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