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24時のアンタレス

お題:『夜空』 ◇ 「ーーあの三つで、夏の大三角形になるわけ」 「あー…うん……」 「向こうの赤っぽいおっきい星が蠍座のアンタレス。で、あのちょっと白っぽーい場所わかる?あそこが天の川」 「へー……」 (すばる)に夜更けに呼び出されて、どこへ行くのかと思えば山だった。 勾配のきつい坂の上。山の中腹あたりの開けた丘に作られた展望台。暑くて暗くて静かで、俺たちのほかには誰もいない。 既に腕を何か所か刺されているようだ。めっちゃ痒い。ムヒ持ってくればよかった。 視界に広がるのは煌めく夜空だが俺の気の大半は腕にいっている。 「……朋貴(ともき)、つまんなさそう」 冷めた返事にようやく気付かれて、昴が俺に視線を移した。 俺はまだ痒い腕を掻くのをやめて昴と目を合わせる。 昴の真っ黒で大きな瞳がこんな夜闇の中でもはっきりと目立っていた。間違いなく俺を見ていることがわかってから俺は口を開く。 「実際つまんないからねえ」 「ええー、こういうの彼女が出来たら教えてみ?すごーいってなるよ」 「……」 彼女なんか作んねえっつの。 唐突な昴の「彼女」発言にイラっときて無言になってしまった。 そーかよ、じゃあお前は彼女出来たらこんなふうに今のこと教えるのかよ。俺にしたように。 はしゃいで嬉しそうに楽しそうに、好きなことをたくさん喋って、そうやってきらきらした表情で笑いかけるのかよ。 ……一瞬でここまで考える自分が小さくて、虚しい。 あーあ。昴を好きになっても何もいいことがない。 俺は思ったことは何も言わなかったけれど、さすがに少しアレな空気を察したのか昴も押し黙ってしまった。 あー……だからってこれはだめだ。昴は何も悪くない。 「……アンタレス」 遠くで赤く光る星の一つを指先でさし示しながら俺はそう呟いた。 蠍座とかいっていたそれは、確かに赤色で大きくてわかりやすい。 「合ってる?」 「合ってる……って。え、朋貴、俺の話聞いてたの?」 「つまんないし、興味ないけど。……昴の話だから聞いてる」 「ほんと!?じゃああれ!あの天の川にかかってる星は!?」 「わかんない」 「聞いてたんじゃないの!?」 「ちょっとだけだもん」 わざとらしく一部含みを持たせたけれど昴はそこには気付いてはくれない。 本当に興味なきゃちょっとだって聞いてない。 手持無沙汰ならスマホくらいいじってるし、そもそも楽しくないと思うところなんか来る前に帰ってる。 そうしないのは隣に昴がいるからだ。 昴が喋っているからだ。 昴とじゃなきゃこんなところ来なかった。 なんでわざわざ、一緒にチャリを押して山道登ってきたと思ってるの。 けれど昴はそんなこと何も気付かない。 気付かなくて、いいけどさ。 日付が変わって暫く経つが昴はまだまだ帰る気配を出さない。 俺は昴の声を聞きながら、再び、ぼーっと夜空を見つめていた。 眠たくなったフリして肩にもたれかかるくらいは、許されるだろうか。 ー了ー

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