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第10話 ミツバチと奥手な童貞先輩

 噂によると彼はとても美しく、性に対して奔放で…… 「大丈夫です先輩。俺、先輩が喜んでくれると嬉しいから」  そして誰よりも優しいのだという。  青春をスポーツに捧げて約六年、気が付けばクラスメイトの大半が経験しているような「恋」というものへのタイミングを、俺は見事に逃してしまっていた。  性に関する話ならどんな物でも興味を持たずにいられない、思春期──。人生でたった一度きりの、甘酸っぱい青春。  そういうものにうつつを抜かす暇があるならピッチングの練習をと、俺は自分に言い聞かせてきた。  だから俺は、このクラスでたった一人の「童貞」になってしまったのだ。  童貞を卒業したい? だったら、ミツバチがぴったりだ。  友人に紹介された、蜂川蜜羽という一つ年下の生徒。愛らしい顔立ちに綺麗な肌、そしてミツバチの名に相応しい甘い香り。  俺は彼を一目見た瞬間から恥ずかしいほど赤くなってしまって、友人に笑われた。  いいか。ミツバチに惚れても良いけど、絶対に独り占めしようとするな。全員がそのルールを守っているからこそ、今の平和が保たれてるんだ。  ミツバチに告白してはならない。  ミツバチの嫌がることをしてはならない。  大事にしてもらいたきゃ、こっちも彼を心から大事にするんだ。  友人の忠告を胸に、俺はこのミツバチ──蜜羽を寮の部屋へ招いた。 「……すまない。こういう、誰かと二人きりになるのとかは初めてで……緊張してしまって」 「そうなんですか? 部長さん、カッコいいからモテそうなのに。スポーツ万能だし、硬派だし」  俺が出したスポドリの缶に口を付けながら、蜜羽が柔らかく笑った。その笑顔が俺に向けられたと思うだけで、試合前とは違う意味で胸がドキドキしてしまう。 「俺は硬派なんかじゃないんだ。……そういう機会が今までなかっただけで、気付けばクラスで唯一の童貞になってしまって……」  経験がないくせに妄想だけは一人前。人には言えない妄想をして自分を慰める日々の、何と味気なかったことか。  俺は蜜羽に全て白状し、赤くなった頬を手で擦った。 「そっか。……じゃあ先輩。今日は先輩がして欲しいこと、何でもしてあげますね」  蜜羽が缶を置き、テーブル越しに俺の手を握った。そして…… 「だから先輩も、俺にしたいこと何でもして下さい」  唇の先にチュッと口付けられ、それだけで体中が熱くなった──。 「………」 「えっと、……いいんですよ、全部脱がしても」  俺のベッドに蜜羽が寝ている。制服のセーターを脱いでもらって、シャツのボタンを全て外したまでは良いが……正直言って、ここから先を脱がすには結構な勇気が必要だ。  シャツの真ん中を引っ張って左右に開くだけ。たったそれだけなのに、何故こんなにも手が震えてしまうのだろう。 「先輩?」 「はっ、……す、すまない。どうにも緊張してしまって……」  蜜羽がくすっと笑って、「照れてる年上の人って、何か可愛いですね」と言った。更に俺の顔は赤くなる。  本当は今すぐ彼の裸が見たかった。妄想の中の裸をこの目で見てみたかった。 「うーん……そうだ、先輩。いいこと思い付いた」  蜜羽が人差し指を振って笑った。 「俺からのお願いだったら、叶えてくれますか?」 「お、お願いとは?」 「先輩。俺のシャツ脱がして……お願い」  蜜羽の顔が急に色っぽくなる。心臓が飛び上がり、額から一気に汗が噴き出てきた。 「早く、先輩……脱がされたい。お願い、俺のシャツ脱がして、……火照った俺の体、見て欲しい……」 「み、蜜羽……!」  俺は意を決して蜜羽のシャツを左右に割った。 「っ……!」  現れたのは真っ白で陶器のように滑らかな肌。薄い筋肉とすっきりした腹、形の良いヘソと、それから……桜色の小さな乳首。  俺はゴクリと唾を飲み下し、しばし固まった状態で蜜羽の体を見つめていた。 「触って、先輩。お願い……」 「ど、どこを触れば……?」 「先輩が触りたいとこ」  俺の触りたいところ。  考えて、つい胸に目がいってしまう。 「ほ、本当にいいのか?」 「うん、大丈夫ですよ」  覚悟を決めて震える手を少しずつ蜜羽の体に伸ばし、その柔らかそうな肌……ではなく桜色の乳首を、人差し指で押してみる。 「あっ」 「わ、す、すまない!」 「大丈夫です、続けて……」  人差し指の先に感じる、ぷにっとした感触。再び押してみたり、ゆっくりと転がしてみたり、優しく摘まんでみたりと繰り返すうちに、蜜羽の乳首が段々と硬くなってくる。 「あ……、あぁ……」 「調子に乗ってすまない、つい……」 「いい、んです……俺も、気持ちいいから……」  乳首と同じくらいピンク色に染まった頬。蜜羽は呼吸を乱しながらも、俺を見上げて柔らかく笑っている。 「蜜羽……その、……」 「うん?」 「触るだけでなく、……く、口で……しても?」  一瞬だけきょとんとした蜜羽が、俺の頬に触れてニコリと微笑んだ。 「いいよ」  ……マスターベーションの時は、自分のそれに触れないと刺激が得られなかったのに。 「は、あぁっ、あ……先輩、上手、……気持ちいいですっ……」  どうして相手がいると、自分に触れるより相手に触れたくなるんだろう。 「い、痛くないか」 「平気、です……。丁度いい……あっ、……」  蜜羽の硬くなった乳首に吸い付きながら、俺は無意識に彼の股間にも手を伸ばしていた。手のひらに感じる感触に、彼も同じ男なんだなと思う。 「先輩っ、……あ、あぁ……俺のこと、好きにして……あっ、お願い……!」  撫で回していた手を揉みしだく動きに変えれば、感情が高ぶって俺自身のそこも熱くなった。 「蜜羽、……!」  寝たままの恰好で、蜜羽が俺のそこに触れる。 「……先輩の見てもいい? 俺も脱ぐから、一緒に裸になろ?」  何ということだ。  この世に、こんなに刺激的な行為があったなんて。 「ん、んん……先輩の、熱い……」 「蜜羽、あぁ……はぁっ、あ……」  それは俄かには信じられないくらい、気が遠くなるくらいの快楽だった。  性器を口に含むなんて普通では考えられないことだ。蜜羽は開いた俺の脚の間にうずくまり、俺の猛ったペニスを味わうようにねっとりと舌を絡ませ、ちゅうちゅうと音をたてて吸い上げている。 「う、あ……堪らねえ……!」  口いっぱいにペニスを頬張り、大きな目をうっとりと蕩けさせている蜜羽。俺はその頭を撫でながら腰をヒクつかせ、息を荒くさせて天井を仰いだ。 「すまない、もうっ、イきそうだ……」 「んっ、……だ、だめです!」  蜜羽が口から抜いた俺のそれを手で握り、慌てた様子で腰を浮かせた。 「ほ、本当に大丈夫なのか?」 「ふふ。……見ててくださいね、先輩」  そそり立ったペニスの先端が、蜜羽の小さな穴に呑み込まれてゆく。 「あ、あぁ……」 「ん、先輩のデカいから、ローション塗っててもちょっとキツいかな……?」 「痛いならやめてもいい……」 「――あぁっ!」  俺の言葉を無視して、蜜羽が一気に腰を落とした。 「っ……!」  今まで一度として味わったことのない快楽、受けたことのない刺激。 「あんっ――あ、あっ! ふあぁっ……!」  俺の上で腰を振る蜜羽。飛び散る汗は宝石のように光り、その頬は薔薇のように赤くなっている。 「み、つば……」 「先輩、気持ちいい……硬くって、長くて、俺の奥まで……!」 「蜜羽っ……!」  俺は彼の腰を支えながらベッドに押し倒し、夢中で腰を振った。誰に教えてもらわなくても、雄は本能でセックスをするのだと知った瞬間だった。  蜜羽の中を何度も貫き、引き抜いてまた奥まで貫く。その度に蜜羽が声を弾けさせる。俺を見つめる潤んだ目が愛しくて、俺は思わずその唇を塞いだ。 「んん……せんぱい……気持ち良い……」 「お、俺も……」  舌を絡めながら繋がり合い、抱き合って一つになる。  これがセックス。  確かに、クラスの連中が「ヤりてえ」と言うのも頷ける……。  * 「先輩、どうでした? 初めてのセックス」 「……さ、最高だった……」 「俺も気持ち良かったし、先輩の役に立てて良かったです」  蜜羽に腕枕をしながら囁き合う。終わった後のピロートークさえ心地好く、何だか夢の中にいるようでうっとりしてしまう。 「俺で良ければ、いつでも相談しに来てくださいね」 「ありがとう、蜜羽……」  こんなふうに寄り添って囁かれると、どうしても錯覚してしまう。  蜜羽と恋人になれたら…… 「………」  思って、打ち消した。  蜜羽は皆のもの。きっとそれは、皆が蜜羽を本当に愛しているのと同じように、蜜羽もまた皆のことを愛しているからこそ出来たルールなのだろう。  誰にでも平等に愛を注ぐ蜜羽。  今の時代、そんな天使がいたって別に構わないだろう。  第十話・終

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