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ありえない新生活 5

 混乱する俺に、男は更に言葉を続けた。 「リジーの身体は、正確に言うと人間の男ではない。  直腸の裏に簡易子宮も隠れているΩ性。三カ月に一度発情して、男を片端から誘っては凌辱される運命の性奴隷だ。  僕とのつがいの契約を結んだら、君を誰にも触らせない。大事にするよ?」  男の声に、俺は、げっと喉を鳴らした。  俺がΩ性? 銀髪男のつがい?  この状態だって、生理的な嫌悪感で吐きそうになのに、男相手の性奴隷? 「そんなもん、嫌に決まっているだろう!?」  叫ぶ俺に、銀髪男が笑う。 「拒否しても無駄だよ?  リジーには、この世界の神に関わる男を一生の恋人(つがい)として契約しないと、戻れない呪いをかけた。  つまり、大神官たる僕を選ばないと、リジーは二度と元の世界には、帰れない」  元の世界、だって!?  そういえば、こいつ、俺の事を『神の御使い』とか呼んでいたな。  本当に『神』なんて者がいるのか、神の国があるのかはともかく、俺は、この国の人間では、無いらしい。  だけど、例え、自分の国に帰るためだとしても、この銀髪を選ぶなんて、あり得ない。 「お前を選ぶなら、ここで死んだ方がマシだ!」  呻く俺に、銀髪男の優しげだった表情が、怒りに歪んだ。 「いいや、お前は一生僕のものになると誓わせてやる!」 「や……っ! !」  銀髪男の言葉を拒否すると、肉の剣が、更に俺の奥を貫いた。  ありえないほど深く、凶悪に! `「うぁあああっ!」  俺は、声の限りに叫ぶしかなかった。  身体が、がくがくと震え、目の前に火花が散る。  すると、最悪な刺激にうながされたのか、どうか。  堰を切ったように、俺は急激に全てを思い出していた。  今居るこの場所は、俺も大好きで五周は繰り返したロールプレイング・ゲーム(RPG)ワールドオブワールド(WOW)』の世界で間違いねぇ、ってことを!  これまで、ごく普通の家庭用ゲーム機の二次元映像で配信されていた『WOW』が、今度、最新型のフルダイブ型のヴァーチャル・ゲーム、VRMMOにモデルチェンジすることになったんだ。  そして、ここはまだ、一般には非公開の新VR版WOWの中。  三次元のリアルと間違えそうな世界に俺は入り込んでいたんだ。  不法侵入じゃないぞ。 『VR版WOW』を制作しているポール・スター社は、俺の仕事場だからな。 『エリカ』なんていう、ふざけた名前のせいで、世間一般さまの『道』から外れた俺にとって、大金星の就職先だったんだ。  俺は、俺の名前をからかい、外見を女みたいだと莫迦にするヤツ相手に、自分の拳を使って対話していた。  こんなコミュニケーション方法は、一度始めたら、手を抜いちゃいけねぇ。  真剣に話合っているうちに、いつの間にか、高校を中退して、繁華街の顔になっていた。  気が向いた時にラインで集まる単車の暴走集団……じゃなかった深夜限定のツーリングチームに所属して、そこでも拳、コミニュケーションで遊んでた。  その中にポール・スター社の重役でジェネラル・プロデューサーの佐藤 光琉(さとう ひかる)が混じっててスカウトされたんだ。  最初は、光琉のアイドルみたいな端正過ぎる顔が気に入らなかったし、殴り合いから始まった出会いは最悪だった。  しかも、二十代後半の若すぎる重役設定に、最初は偽企業の下っ端じゃないかと疑ってたほどだった。  なのに光琉は、一体俺の何が気に入ったんだろう?  首をかしげながらも結局、光琉の口利きで、俺は、今春からポール・スター社に入社出来た。  俺の肩書は『システム・エンジニア』だ。  けれども今まで喧嘩に明け暮れていた癖に、新社会人になったとたん高度なブログラミングなんて、できるわけがない。  そんな俺の仕事は、近日行われる一般公開に先立って、ほぼ出来上がっている『ヴァーチャルWOW』の世界に入り込むことだった。  自分の目でバグを見つけたり、運営特権で自由に自分のレベルの上げ下げをしながら、出現する怪物の試し狩りをしている。  次世代型VRを使ったオンラインゲームとして、単車(バイク)のフルフェイスメットみたいなものを被り、専用の寝台に横になる。  そして精神だけが現実そっくりな世界、『VR版WOW』の世界にダイブする以上。  喧嘩慣れして、自分より大きな怪物を見てもビビらず、肝が据わっているヤツが良いんだそうだ。  実際ゲーム世界では、どんな怪我をしても、一瞬痛むだけで、出血はすぐ止まり、体力ゲージが下がるだけだ。  現実世界にどんなにそっくりでも、何も怖いことはない。  だけども、ゲームの内容以外で問題があることは、あったんだ。  ゲームの製作現場では、光琉の直下の部下でプロデューサーの一人、支倉なんとかって男に目を付けられた。  重役の光琉から直接仕事を貰ったせいか。  システムエンジニアって肩書きのくせに、技術的に何もできない俺のことが気に入らないのか。  それとも……それとも。  男女の性の他に最近見つかったα、β、Ωの三種類の性のうち、俺がΩ性だっていうことがバレたからなのか。  Ω性は、男でも直腸の裏に子宮がある。  三か月に一度、一週間もある発情期(ヒート)の間はエロい気持ちに理性が食われ、ヤる事以外何も考えられなくなる。  当然その間は、勉強も仕事も全く手が付かない。  傍から見れば、ただ遊んでいるようにしか見えねぇだろうな。  しかも厄介なαβΩ性は新しく発見されたばかりで、体質の全てはまだ全部判っちゃいねぇ。  なんせ、Ω性の俺自身も良く判らねぇぐらいだ。  当然一般に浸透してねぇことだし、俺を偏見の目で見るヤツもいるのは、仕方がねぇとは、思っている。  それでも支倉プロデューサーのセクハラ交じりの冗談に付き合うのは、かなりウザかった。  今度発情期になったら、手伝うって言い出しやがったんだぜ?  っ、たく、ナニを手伝う気だ、てめぇ!  Ω性でもペニスがあり、それが正常に機能している以上、たとえ子宮があっても心が女だとは限らねぇ!  Ω男の全員が全員、男が恋愛対象になるとは限らねぇんだからな!  いくら発情期だって、俺は男のケツを掘る趣味なんざねぇし!  俺を女に見立てて突っ込むつもりなら、殴り飛ばしてやる!  そう怒鳴ってやったら、支倉は蒼い顔して逃げて行ったけど、まぁ、Ω性を前にした(ヤロー)の反応は、大体こんなもんだ。  ここで、本当に殴り合いになったら、光琉に迷惑が掛かる。  腹は立ったが特に気にしないことにして、おおむね調子よく、仕事をしていた……はずなのに。  俺は、ゲーム世界で森の中に現れる怪物の実際の出現率を調べるために、いつものようにWOWの中にダイブした。  そして、魔物の森に入ったところで、ノン(N)プレイヤー(P)キャラ(C)の盗賊に襲われたんだ。  

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