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ありえない新生活 6

 NPCなんて十人がかりでも、もちろん俺の方がずっと強いぜ!  だけど、やられキャラの怪物はともかく、特殊AIを搭載して『リアルな背景』を構築中のNPCを殺傷するのは禁止だ。  新WOWの世界は、前作二次元WOWの続きの話である以上、俺の知らないところで、前作の再現がされているはずだ。  下手にNPCと関わってストーリーが変わったら取返しが付かない、とは言われていたからな。  それ以前に、思いがけないほど盗賊は人間らしかった。  感情豊か過ぎる盗賊達の言動に戸惑っているうちに、奴隷首輪をつけられ売り飛ばされた。  そして、奴隷になった俺を買ったのが、この銀髪男だ。  奴隷の首輪に縛られていた時は、主人になった銀髪男の命令に逆らえない思考制御がかかっていたってのが、今までの状況らしい。  でも、首輪が外れた今は、違う。  理不尽な凌辱を受けながら、ここから逃げ出すには、ログアウトしてしまえばいいことも思い出した。  早くコイツから逃げ出して、シャワーを浴びたい。  このゲームに最近見つかったばかりのΩ性も混ざってることは説明されなかったし、まさか、自分がそんな身体でこの世界をうろつく羽目になるとは、思わなかった。  俺はΩ性とその体質が嫌いだ。  なのに何が哀しくて、遊びであるはずのゲームの中でもΩ体質で悩まないといけないんだ!  思考制御するらしい奴隷首輪の威力も酷過ぎる。  こんな気が狂いそうになるほどの快楽は、趣味のヤツには追加料金を払ってでも体験したいだろうが、俺は二度と御免だ。  しかも新しいWOWは、前作の二次元ゲームの続きの話で、全年齢対象のはずなのに、これはダメだ。  そもそもこの奴隷部屋は、日本から召喚された勇者をサポートしてくれる騎士、『隻眼の黒狼』ルイ・スペンサーが、悪の神官、エドマンド・アイスマンと戦って片目を失ったっていう昔話にちらっと出てくるだけなんだ。  勇者を庇って死んでしまう、ルイ。  一対一では無敵だった彼が、目の見えない方向から飛んで来た矢に当たって死んでしまう場面が、とてもカッコよくて哀しかった。  けれどもWOWのNPCの中でも最強。絶大な人気を誇る『ルイ』が、目を怪我し、視力を失う場面の詳細なんて、誰も見たくなんて、無いだろう。  実際、WOWのファンの中で、ルイの視力を奪うな! ルイを殺すの反対!  なんて声高に叫ぶ、ちょっと過激な団体もあるらしい。  そんな人気ぶりを受けて、新WOWでも、もちろんルイは登場する。  ルイが、プレイヤーが操作する勇者を庇って死んでしまう事は変わらないけれど。  彼の死によって、今まで世界にたった一人だった『勇者』が、この新WOWをプレイしている人数だけいることが判るんだ。  そしてその先は、万能無敵なルイに守られるのではなく、プレイヤー同士が協力して、ゲーム世界を探索したり、様々なクエストをこなして行くことになる。  ルイは、ゲームをしていれば必ず出会う、チュートリアルのキャラクターの一人になるんだ……けども。  もし、俺が新しいWOWをプレイヤーとして初めても、ルイが死んだら、その先に進む気は起きないだろうなぁ。  初めて魔王城攻略をしてルイが死ぬのが判ってから四周もやったのに、全部最後の攻略戦直前で止まってるぐらいだ。  新しくなった3Dのルイの姿を見て見たい、と思う一方。  彼の哀しい運命を考えると会いたくない。  そんな大切なキャラなのに!  誰だ!  前作のWOWが始まった時間軸の中でも、閉鎖しているはずの奴隷部屋を改めて作って、放置したヤツは!  光琉に報告して、どいつもこいつも、全~~部無かったことにしてやる!  そう誓って、俺はこの世界から逃げ出す呪文を呟いた。 『ログアウト』  ……その途端。  俺の目の前に、真っ赤な『エラー』の点滅文字が文字が浮かび上がると、警告と一緒に、合成音が耳元で響いた。 『警告、PC(プレイヤーが動かすキャラクター)の不正改造が認められたため、ログアウト出来ません』  げっ、なんだって!?  その声に、俺は動ける範囲で、見渡す……までも無かった。  俺の臍の下に光るハート逆立ちマークが、くっきりと浮かび上がってる。  こ、これは、つがい契約用マーク!?  神に関わる者と契約しないと帰れない、と銀髪男が言っていた以上、このマークのために、俺はログアウト出来ないんだ!  仕方ねぇ。WOWでトラブっていることを、知らせよう。  世界を監視してる:仲間(オペレター)に緊急と位置情報を知らせるシグナル、ビーコンを飛ばそうとして……そいつも、ウンともスンとも言わねぇ事に気が付いた。  マジで!? もしかして俺は、WOWに閉じ込められた!?  信じられない事実にパニックになりかけてるのに、銀髪男が追い打ちをかける。 「ねぇ。僕に抱かれているときは、他のことを考えちゃ、ダメだよ?」  わざわざ言われなくても、更に激しくなった腰使いに、俺はもうダメだったし、銀髪男も限界だった。 「ああ、リジーリジー、僕のリジー!」 「う……あ……く、ふ」  ジュビ、ジュバッと続く淫らな水音をたてて、啼くように俺の名前を呼びながら、胎内最奥まで肉の剣が俺を穿ち、白濁をぶちまける寸前だった。 『彼』が扉を蹴破り、この部屋に入って来たのは。  

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