10 / 23

ありえない新生活 10

 新WOWに搭載されてる人工知能(AI)は、最新型だ。  それは人間のNPCだけでなく、敵役の怪物の類にも当てはまるらしい。  アイスマンの召喚で出現した怪物、シーアーチャーを見れば判る。  いつまでも部屋のあちこちに棘を突き刺したまま、自滅気味に身動きの取れない緑スライムのセルフ標本状態って言うのは、もの凄く間抜けだ。  AIもさすがにこの状況はマズイと考えたんだろう。  やがてシーアーチャーは怪物らしく動き出した。  ブチブチブチ……ッ!  引き千切るような音をさせ、怪物は壁に刺さった棘を本体から無理矢理引き剥がした。  移動に邪魔だった長い棘を、床や壁、天井に残して自由の身になった途端。  残りの棘に覆われた巨大なウニ型スライムボールが、壁に触れて無い分の棘を矢のように吹き飛ばしながら、俺たちの方に向かって転がって来やがった!  しかも、一度棘を分離してただのスライム状になると、棘を生やし、部屋中を突き刺して身動きが取れなくなると、棘を吹き飛ばしながら動き出す。  WOWオリジナルの怪物は、そんな厄介なことを繰り返す生物に変化したんだ! 「うわわ! こっちへ来るな!」  叫んだのは、怪物を召喚したはずの銀髪男だ。  けれど、指輪を投げ捨てた奴に、召喚怪物の制御はできねぇ!  ゆっくり迫る本体に対し、棘は素早く何本も、だれかれ構わず飛んで来る!  シュ、シュシュシュッ!  タン、タタタンッ!  容赦なく飛びかう棘に突き刺さる寸前、銀髪男は、床に這いつくばって難を逃れた。  魔物を呼んだ召喚主さえ、この始末だ。  俺やルイ。そのほかにこの船倉に乗り込んできた騎士団。  元からこの部屋で、イケナイ遊びを楽しんでたやつらも全員、例外なくシーアーチャーと棘に追いかけまわされる羽目になった。  今も、そら。  ビュッ!!  風切り音を響かせて、三十センチほどの長さの棘が目の前を飛んで来る!  怖っわ!  俺は華麗に避けられたけれど、こんなのに当たったら、ルイじゃなくても確実に失明するぞ!  冗談じゃねぇ!  一匹だって洒落にならねぇのに、魔法陣の中から一体ずつ、全部で十体も現れてんだぞ!  しかも怪物は、次々と壁や床から自由になったかと思うと、俺やルイ、黒狼騎士団に襲い掛かる。  怪物(こいつ)は強えぇな。  黒狼騎士団員が相手だと、シーアーチャー一体につき、三~五人ぐらいの騎士たちが取り囲んで何とかボコッている感じだ。   ルイは、一人でもイケそうだが、俺を庇うと、危ねぇ!   しかも、WOWのシナリオでは、この怪物が直接ルイの目を奪うんじゃない。  逃げる銀髪男を追いかけたルイが、逃走通路に潜んだ凶器に刺されるんだ。  シーアーチャーの暴走がもともと予定されていたシナリオなのかは、判らねぇ。  ただ予定通り、銀髪男が逃げようとして、騒ぎに応じてジリジリと距離を取っている以上、この先危険なトラップは、必ずある!  それが発動するのも時間の問題じゃねぇか!  くっそ~~! 居てもたっても居られねぇ!!  俺も一応、この世界を作る運営の仲間だ。  物語の進行は、何より大切なことも判っている。  だけど、生きて話をする『本人』を目の当たりにして、このまま見過ごすことなんて、出来るか、莫迦たれ!  ルイを怪我から救う事によって、物語のシナリオが、どう変わるなんて、知らねぇ!  だけど、心から気に入ったヤツを見捨てるなんて、男がすたる。  銀髪男に犯された時点で、俺の男としてのプライドはズタズタだったし、腰はガクガクで、情けねぇったらねぇが、それでも、曲げられねぇものはある!  女みたいにルイに守られるんじゃなく、俺がルイを守るんだ!

ともだちにシェアしよう!