11 / 23

ありえない新生活 11

 運営特権でレベルを上げて戦えば、どんな魔物をも倒せるはずだ!  棘込みで自分よりデカいとか。  数が多いとか。  ビビる要素を吹き飛ばし、前に出さえすれば、俺は勝てる!  ただ、厄介なのが、こいつの刺に刺されると、高確率で強烈な状態異常が待ってるってことだった。  素手で殴って動けなくなる確率に、レべルの高さは関係ない。  肝心な時に行動不能になったらルイを助けられねぇ。  武器か、武器の代わりになるもんが欲しい。  なんかねぇか!?  鑑定機能を使って見回せば、きっと何か見つかるはずだが……げっ! 『ピロリン』なんて気の抜ける音と一緒に出た矢印の先にあったのは、銀髪男が壊して俺の首から外れた奴隷首輪の残骸だ。  ウソだろ!?  なんでこんなのが、武器になるんだ!?  本当は、触るのも嫌だ。  でも、危険物が飛びかってる以上、一刻も早く武器が欲しかった。  ためらっているうちにも、特大の棘が飛んでくる!  くそ! 背に腹は代えられねぇ!  シュッ! バシッ!  反射的に首輪の鎖の片端を持って、扇風機みたいに振り回せば、棘は簡単に絡め落とすことが出来た。  ああ、武器としては、悪くねぇ。  首輪は武器としては短すぎるのに、振りまわしているうちに鎖が丁度よく伸びて来て……鎖の鞭みたいになった。  しかも軽い上に丈夫だ。  それで、雨みたいに降って来る棘を叩き落とし、ルイに守られる体で、実は彼の背中を守りながら、本当は鞭より剣のがいいのにと思ったとたんだった。  元は奴隷首輪だった鎖の塊は、普段の俺が愛用している剣と同じ形になりかわる。  首輪についていた思考制御付与って所持者の意思を封じるだけでなく、所持者の要望をなんでも聞いてくれる便利武器、だったっけ?  いいや、違う。  首輪は、元々つけた人間の思考を弄り制御するためのものだ。  運営側の俺の思考でさえ、完全に狂わせたぐらい強力だったし、暴れても壊れないように頑丈だった。  それを銀髪男が無理に壊したから、バグ気味に変化したらしい。  時々読めない文字とノイズが交じる『SS鑑定』の画面ははっきり言って怖えぇが、首輪の特性を生かした魅力的な武器になった。  SS鑑定機能、いわく……  持ち主の希望によって、剣にでも槍でも持ち主の想像力の続く限り、自由にその形を変えられる上。  首輪の残骸をこれ以上破壊できるモノは、WOWの世界に存在しねぇ。  つまりこれを良く切れる剣の形にしたら、刃こぼれ一つせずに何でも切れるトンデモ武器になるってことだ。  一方で、デメリットもあると鑑定機能が告げる。  まず、この即席の剣がバグって出来た不法不安定な存在だってこと。  剣を使う五分に一回ごとに『狂気(バーサク)』か『正常』かの1/2判定が行われるってことだ。  それで、もし狂気を引き当ててしまった場合。剣の思考制御を受けて、俺は狂う。  WOWのバーサク状態の場合、普通は敵、味方関係なく、目の前で動く全てのものに切りかかる事になる。  物騒な武器だってことは、承知。  でも。怪物の刺を受け止められるほど堅い武器は他に無く、俺にはこれが必要だった。  使える物なら便利に使おう。  生死を分けるような戦いで、一回五分の戦闘は結構長い。  全て五分でケリをつけ、勝てばいいことだ。  もし時間がねえ時は、狂気判定の寸前でレベルを思いきり下げればルイが止めてくれるだろう。  決まり! 上等だ!  戦うと腹をくくった後は、早かった。   風を切って飛んでくる無数の棘を首輪の残骸の剣……えい、面倒なので首残剣(しゅざんけん)と命名しよう……で落す。  スパッ!  良し。  思った通り、棘は真っ二つになった。  鮮やかな首残剣の切れ味に一人頷いていると、目を丸くしているルイと視線があう。  そりゃあ驚くだろう。  本来なら、ルイの背中で守られるべき、ひ弱な奴隷のはずの俺が、飛んでる棘を切り捨てたんだ。  ルイは、もの言いたげに俺を見たけれど、説明する状況じゃねぇ!  そう。  ルイと一緒に船に乗り込んできた騎士たちの数人が、緊迫した声をあげたんだ。 「パルティア帝国大神官、エドマンド・アイスマンが逃げるぞ!!!」

ともだちにシェアしよう!