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奴隷の少年(ルイ・スペンサー視点)2
まるで、空と海のように蒼く長い髪と蒼い瞳。
ディザ・ブルーは海の騎士団『蒼竜』を率い、私とは幼なじみで、一緒に剣の修行をし、座学では机を並る学友だった男だ。
海軍騎士団の旗船、ディーン王国最速の帆船、蒼竜丸に乗船して海軍騎士団の指揮をとるが船長室に閉じ籠るタイプではない。
いざとなれば、自分も甲板に出て、目もくらむ高さの見張り台に立つ。
手足の長い、いかにも身軽そうな細い身体をしているが、見かけに騙されてはいけない。
自分の部下を数人引き連れいているにも関わらず、今回摘発に入ったガレ―船の船長を、軽々と担いで平気なぐらい逞しい。
それでも丸々と太った男の船長は重かったのか「よっ」と小さく掛け声をかけて下すと、それなりに整っている顔をしかめた。
「何を騒いでいるんだ、ルイ。
ここは、船上で敵は逃げられぬとはいえ、気付かれて抵抗されたら厄介だぞ?」
「るせぇ! それより、帝国の奴隷商人たちをとっ捕まえる手続きって言うやつは終わったのか?」
私の質問に、蒼竜団団長は目を見開いた。
「ルイは、いつもに増してやる気満々だな」
ああ? どいつもこいつも、一体なんだ、と言うんだ!
さっさと仕事をしろ! と私が怒鳴る前に、ディザは肩をすくめて、テキパキと言った。
「……こっちの手続きは終わった。
後は、船長に今回の首謀者パルティア帝国大神官、エドマンド・アイスマンの顔を確認させるだけだ」
エドマンド・アイスマン? そいつは、誰だ? と船長の背中を小突いたら、案の定、だった。
私の黒髪の少年を凌辱している、あの男だ!!
くそっ!! 許さんぞ!
どんなに身分が高かろうとも、絶対たたっ斬ってやる、と腹の底で誓い、なるべく冷静に声を出した。
「判った。では、これより大神官を捕縛する。全員、突撃」
「「は!?」」
少し、唐突過ぎたのか、腹心のラオと、蒼竜団団長のディザが、驚いた顔をしていたが、知らん!
くそ面倒な手続きが終わって、私の物を奪還出来と言うのに、これ以上一秒だって待っていられるか!
一体何をされているのか。
大勢の中から聞き分けた、少年の獣のような絶叫を聞いて、俺は奴隷部屋の扉を蹴り壊した。
そして、怒鳴る。
「パルティア帝国大神官、エドマンド・アイスマン殿!
私は、ディーン王国:黒狼(こくろう)騎士団団長ルイ・スペンサーだ!
ディーン王国奴隷禁止法を犯した現行犯で、貴方を拘束する!
無駄な抵抗は止めて、今すぐ相手から離れろ!」
正直なところ『今すぐ相手から離れろ!』の部分、本当は、全く関係ない場所だった。
が! 私が今、一番言いたかったところは、そこだ!
本来なら絶対入ってはいけないはずの私情が入りまくっている。
それは、判っている。
判っているが、止められはしなかった。
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